第75話(03.03.23)
ギタリストの為のアンプ検証 その5(フェーズインバーターの話)
今回からは、シミュレーションを多用して、アンプなどの解析を行いたいと思う。
大きく分けて、ギターアンプには比較的小型のシングルアンプとプッシュプルアンプに大別される。Fenderでいうと、シングルアンプはチャンプシリーズが有名。
プッシュプルのアンプを設計する上で、信号の位相を180度ずらし1つだった信号を2つに分けるフェーズインバーターは、重要な回路ブロックのひとつである。
P.I.段(フェーズインバーター)に使用する真空管で12AX7,12AT7がよく使用されるが、この両者の違いについて検討してみる。
比較検討する回路は以下のとおり。
Fig.1(P.I段に12AX7を使用した回路) Soul Breakerの回路から、NFBを削除した回路
Fig.2(P.I段に12AT7を使用した回路) Fender TWIN REVERB(ただし、パワー管は2個はずした状態、NFBは削除している。
まずは、PI段の性能をシミュレーションしてみる。
12AX7の場合である。
PI Input(Y2)
PI Output(Y1)
ゲインは20*log(40/2)=26dBである。周波数特性は、20kHz以上で落ち込みが見える。
次に12AT7の場合である。
ゲインは20*log(37/2)=25.3dB。低域で落ち込みが見られるが、これは、入力段コンデンサC1の影響である。味付けの部分である。高域が減衰する周波数は12AX7の時と変わらないが、落ち込むレベルは少ない。
増幅率自体は12AX7は100程度、12AT7は60程度であるが、PIの使用であれば、ゲインにそれほど大きな差は現れない。(使用回路も違っているのであるが)
次に入力レベルを可変させて、PIの出力電圧波形を観測する。
12AX7の時
12AT7の時
気がつくのは、上記の波形のように、歪んでからのダイナミックレンジは12AT7の方が余裕がある。やはり12AX7の方が歪みやすいということ。
実際に、ギターを弾いた時にどちらが良いアンプと感じるかは、これだけではわからないが、おそらく、ダイナミックレンジが広い12AT7は表現力が豊かであり、逆に12AX7はハードに歪み、またダイナミックレンジは狭い。という結果が想像できる。
個人的には、TWIN REVERBなどのフェーズインバーターに12AT7を使用したアンプは、クリーンな印象があるが、12AT7を使用するアンプの場合、大抵は大型の100Wクラスのアンプなので、クランチ以上に音量を上げていないため、そのような印象があるのかも?と思っていたが、12AT7の内部インピーダンスが12AX7と比べて低いこともあり、パワー管のGRIDが初速度電流を流しだしても、ある程度、がんばる事ができる。12AX7の出力はすぐにへこたれてしまい、ダイナミックレンジの狭い歪みを誘発する。ということがわかる。
くれぐれも申し上げるが、だから音がいい、悪いという世界には直接結びつかない。あくまでも、好みの問題となる。