愛鷹火山東麓の地質


1.はじめに
 足利時代から徳川時代にかけて、愛鷹山は足高山とかき、連峰の南にある1187.5mの一峰を呼んだようである。この峰は愛鷹山と呼んでいるので、全体を呼ぶとき、愛鷹火山とした。
 愛鷹火山の地質については、愛鷹火山地質図(沢村原図、小川改訂1974年)がある。(画像2)
これまで三島溶岩の西側境界は愛鷹火山の東麓を流れる佐野川とされてきたようである。景ヶ島や今里、呼子町、下和田などの佐野川には、愛鷹火山の凝灰角礫岩や玄武岩の溶岩が観察できる。

2.調査について
画像4は愛鷹火山の東麓、佐野川左岸で観察できた愛鷹ローム層などの露頭の位置である。愛鷹ローム層中の箱根新期軽石流HK(pfl)は露頭A、C、D、Eで採取でき、水洗いしてみた。当然ではあるが、HK(pfl)に含まれるパーミスなどの様子は大変良く似ていて、鍵層として有効であった。

 
画像4,地図は愛鷹ローム層など観察した露頭の位置である。


露頭@ 愛鷹ローム層
四ツ溝 普明寺の裏山


露頭@ 普明寺の裏山、愛鷹ローム層 2015年2月7日 撮影
 愛鷹ローム層の下位は火山礫が多くなる様子が観察できる。

露頭A 愛鷹ローム層
三宿景ヶ島渓谷の東約50m


露頭A 景ヶ島渓谷の約50m東の愛鷹ローム層 2015年1月8日 撮影
露頭@からAに分布する高度184mの高まりは愛鷹ローム層で、
津屋(1968年)の 地質図に記入した矢印の愛鷹火山の岩石に当たる。
 
露頭Aの箱根新期軽石流HK(pfl)を水洗いしたものである。

露頭B 愛鷹ローム層
葛山浅間神社の近く

 
露頭B 葛山神社の近く 2015年2月12日 撮影
露頭は愛鷹ローム層の最下位で黒い火山礫を多く含む。
この黒い火山礫の下位は凝灰角礫岩に変わる。

露頭C 愛鷹ローム層
金沢 溜池の北西


露頭C 金沢の愛鷹ローム層 2015年2月12日 撮影

露頭C HK(pfl)を水洗いしたものである。
パーミスは直径約1cm以下で黄褐色をし、余り発泡していない

露頭D 愛鷹ローム層
金沢地蔵尊仏の横

 
露頭D 金沢地蔵尊仏の横 2015年3月30日撮影
 
露頭DのHK(pfl)を水洗いしたものである。
パーミスは直径約1cm以下で黄褐色をし、余り発泡していない

露頭E 愛鷹ローム層
トヨタ自動車研究所の南 今里新田への道路沿いの新しい崖

 
露頭E 今里新田の愛鷹ローム層 2017年5月19日撮影
 
露頭EのHK(pfl)を水洗いしたものである。
パーミスは直径約1cm以下で黄褐色をし、余り発泡していない


露頭F 愛鷹ローム層
下和田

 
露頭F 下和田の愛鷹ローム層 2015年2月19日撮影

露頭I 佐野川右岸の愛鷹ローム層 

葛山城跡

 
露頭I 佐野川の右岸にある葛山の城跡の愛鷹ローム層 
箱根新期軽石流HK(pfl)が断層でずれている。2015年10月24日 撮影
 
写真は露頭Iの箱根新期軽石流 HK(pfl)を水洗したものである。

3.佐野川渓谷における愛鷹火山の追加調査
 
 佐野川の渓谷については、「景ヶ島渓谷」のページで既に説明したが、さらに調査を広げたので追加する。

ア、佐野川の板状節理がある安山岩の岩脈
 今里から呼子町への佐野川に沿う道路が、佐野川の右岸から左岸へ変わる赤く塗装された橋がある。この赤い橋から約100m下流の右岸に、安山岩の岩脈がある。この岩脈には板状節理が見られる。


写真は今里の安山岩の岩脈で、板状節理がある。
2015年4月22日 スケールは1m
 
写真は板状節理で割れた岩石片。
シャチョウ石に富む安山岩である。

イ、今里の佐野川

 
写真は今里の佐野川左岸の凝灰角礫岩。
赤い橋の脇。2015年2月14日、メジャー1m
 
写真は今里の佐野川底の玄武岩溶岩流。
上位は凝灰角礫岩に変わっている。
赤い橋の上から写す。2015年2月14日


ウ、呼子1丁目、下和田の佐野川

 
写真は呼子一丁目の佐野川の凝灰角礫岩。 
2015年2月14日
 
写真は下和田の佐野川。 2015年2月19日
砂礫が多く、涸れ沢となっている。
遠方の街並みは愛鷹ローム層の台地にできた
呼子の町である。

エ、用沢川について
 用沢川は須山の富士山資料館近くの須山登山道脇を流れ、下和田で佐野川と合流する涸れ沢である。用沢川の川底に溶岩流はみられない。

 
 写真は須山の用沢川である。
 2015年2月24日
 
写真は下和田の佐野川(左)と用沢川(右)
の合流点である。 2015年2月19日

 
4.愛鷹火山東麓の地質のまとめ
 富士山の溶岩が愛鷹ローム層を乗り越えて、佐野川へ流れ込むことも考えられるが、佐野川には富士山の溶岩を見つけることができなかった。
佐野川は愛鷹火山の岩石(愛鷹ローム層や凝灰角礫岩)を侵食して流れ、黄瀬川の「五竜の滝」付近で黄瀬川と合流する。合流点付近の佐野川の左岸(五竜の滝の駐車場やマンション)には三島溶岩が分布するが、右岸には、愛鷹火山の玄武岩が分布している。
 愛鷹ローム層と富士黒土層の境は, 裾野市運動公園付近にあると思われるが確認できていない。

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参考文献


加藤芳朗 (1988):地学・土壌・考古環境 加藤芳朗先生自選論文集刊行会
小川賢之輔、篠ケ瀬卓二(1974):富士・愛鷹山麓地域の自然環境保全と土地利用計画調査報告書 富士市
小川賢之輔(1961):愛鷹山 吉原市教育委員会編
黒田 直 (1974):静岡県の地質 静岡県
土 隆一編著 (1985):静岡県の自然景観(愛鷹ローム層 高橋 豊) 静岡県
町田 洋 (1996年):小山町史 第六巻 原始古代中世通史 自然編 小山町
槇山次郎、森下晶、糸魚川淳二(1974年):日本地方地質誌 中部地方 朝倉書店
Kennosuke OGAWA(1980):GEOLOGIC MAP OF Mt. ASHITAKA
町田 洋・白尾元理著(1998):「写真でみる火山の自然史」 東京大学出版会
小山真人(2013年):富士山ー大自然への道案内(P122〜124) 岩波書店 
津屋弘みち「富士火山地質図」(2002年地質調査総合センターCD-ROM版)