人類の遺伝的多様性と火山活動  NHK 科学と人間 富士山はどうしてそこにあるのか 山崎晴雄 参照


 人類の祖先のホモ・エレクトスは180万年前、アフリカからヨーロッパやアジアへ分布を広げていった。アジアでは約100万年前のジャワ原人や約80万年前の北京原人の化石が見つかっている。
 国立科学博物館、台湾自然科学博物館などの研究グループは、台湾沖海底から人類の下顎の化石が見つかり、澎湖人(ほうこじん)と名付けられたと発表した(2015年1月27日、朝日新聞)。澎湖人の年代は19万年前頃と推定され、現代人(ホモ・サピエンス)より少し古いようだ。
 

 


 遺伝子の研究が進み、我々現代人(ホモ・サピエンス)は他の哺乳類と比べて遺伝子の多様性が乏しいということが分かってきた。遺伝子の多様性とは1つの種の中での遺伝子の違いであって、人間でいえば性格の違い、食べ物の好き嫌い、背が高い低い、皮膚の色の違い、寒さに強い弱い・・・などで、違いが多いことを多様性が高いという。チンパンジーは人類によく似た遺伝子を持っているが、それでも人類の10倍の遺伝子の多様性を持っているといわれている。
 いろいろな人間がいるように思うのだが、遺伝子上、人間はお互い驚くほどよく似ているということである。
 遺伝子の多様性を高める1つの要素は突然変異である。突然変異は一定の期間に一定の割合で発生する。従って、遺伝子にどれ位、突然変異が組み込まれているか、即ち多様性があるか調べると、その種が何時の時代に分かれたか知ることができる。
 ホモ・サピエンスについて、分かれた時代を調べると約7万年前と計算されるようだ。約7万年前に何があったのだろうか。

 73、500年前、インドネシアのスマトラ島北西部のトバ火山がプリニアン式の大噴火活動をした。長径約50kmもある世界最大のカルデラ湖が残っている。この噴火活動は第4紀における世界最大で、噴出物の総量は2800立方kmの超巨大噴火であった。噴出物は東南アジア、インド、パキスタンなどを覆っている。噴煙は上空35、000mに達し、地球へ到達する太陽エネルギーが遮られて、大幅に減少し、地球の平均気温は3〜5℃低下した。地球上の動植物に大被害を及ぼし、回復には数十年を要したと推測される。ドバ噴火による環境悪化で生き抜いた人類はホモ・サピエンスの一部とヨーロッパに住んでいたネアンデルタール人で他は絶滅したようである。これがホモ・サピエンスの遺伝子の多様性が低い原因と考えられている。

 地球上の生物の生存に影響を与えるようなプリニアン式大噴火は日本列島にもあった。約6万年前の軽石流を噴出した箱根カルデラ噴火、約3万年前の九州のシラスを噴出した姶良カルデラ噴火、7、300年前の鬼界アカホヤ火山灰を噴出した、薩摩半島の南にある鬼界カルデラ噴火などである。

 人類の生存を脅かす恐ろしいプリニアン式大噴火や巨大隕石の落下などは数万年に一度というような自然現象であり、被害が大きすぎて人類は対応できない。しかし、噴火の心配がある活火山の噴火の前兆現象は見落とすことがないようにしたい。