放射性物質と風向 2011年8月   中学生・高校生の皆さんへ 2016年5月追記

 放射性物質は物質ですから、大きさも、質量もあります。しかし、目で見える程の量が身近にあれば、人は生きていられません。100万分の1グラムの放射性物質を飲まされて殺された事件もありました。(2006年、ポロニウム210という放射性物質で)
 このように目では見えないような微粒子ですから、風によって運ばれます。それぞれの地域で、どのような風が吹くか、風についての知識は、被ばくの量を少なくするために大変大事です。

原子力発電所で事故が起きたとき、直ぐに風向を調べます。
・自分が原子力発電所の風下に位置するときには、出来るだけ早く、風向と直角方向へ、逃げるようにします。
・雨や雪の粒子は風によって運ばれる放射性物質を核としてでき、また放射性物質を取り込んだりしますので、強い放射性物質を持っている可能性があります。雨に濡れないように、濡れた場合は速やかに、洗い落とすようにします。

1.風を起こす力
@気圧の差による力(気圧傾度力)
2地点間で気圧差があるとき、気圧の高い方から低い方へ力が働いて、風が吹きます。気圧は等圧線で表し、等圧線の間隔が狭いところで力が大きくなり、強い風が吹きます。

A地球の自転による力(転向力
転向力は地上で運動する物へ働く力で、北半球では右へ(南半球では左)働きます。風は転向力をうけて、右の方向へ向きを変えます。風速が大きいほど転向力は大きくなります。※1

2.風のいろいろ
@偏西風
地球規模の大きな大気の流れを大気の大循環と言います。
日本付近(北緯30度から60度)には亜熱帯高圧帯から北へ向かう風が転向力で右へ曲げられた偏西風が吹いています。1707年12月の宝永の噴火で放出された火山灰は偏西風によって東へ運ばれ、横浜でも火山灰が約5cm積もリました。

 東京電力福島第一原発の事故により、大気中へ放出された放射性物質の多くは偏西風によって、太平洋の方向へ運ばれました。東方海上での放射線は強かったに違いないが、東方海上での放射線観測は行われず資料はないと思っていました。
 米原子力規制委員会(NRC)議事録の公表で大事な資料がありました。2011年3月13日、福島原発から約185km離れたところにいた空母「ロナルド・レーガン」が通常の30倍の放射線量を検出したそうです。(浜岡原子力発電所から東京までの距離が約185kmになります。)

 福島原発から約185km離れたところにいた空母「ロナルド・レーガン」に乗っていて、被曝した米海軍の兵士はどうなったか気にしていたが、2016年5月19日の朝日新聞に次のような記事がありました。
”福島第一原発沖で被曝した米海軍の元兵士400人が、東京電力側を相手に集団訴訟を起こした。「原発ゼロ」を唱える小泉元首相が訪米して健康被害の訴えに耳を傾け、見過ごせないと涙を流した。
原子力空母の艦載機の整備士だったセオドア・ホルコムさんは、その後骨膜肉腫を発症し、2014年死去した。 航海日誌や元乗組員らの証言によると、集団訴訟を起こした元兵士らは、原発事故で発生した放射性プルーム(雲)の下で強い放射線を浴び、汚染された海水(脱塩水)を使って内部被曝した可能性がある。”

 

A高気圧や低気圧の風
 高気圧では気圧が高い中心から外へ吹く風が転向力で右へ曲げられます。冬のシベリア高気圧から吹く北西の風は強く、北西の季節風といいます。
 低気圧(温帯低気圧、熱帯低気圧、台風など)では気圧が低い中心へ向かう風が転向力で右へ曲げられ、時計の針と逆の渦になります。

偏西風帯でも、高気圧や低気圧が発生したり、通過したりすると、風向は変化します。

   

B海陸風

 水と岩石の比熱の違いなどから(※2)、陸と海で温度差が生じて発生する風です。海岸で吹く風です。
海風:昼間、海から陸へ吹く風です。午後2時から3時頃、最も強くなり、風速5m〜6m/s程度です。
陸風:夜間、陸から海へ吹く風です。夜半過ぎ最も強く、風速2m〜3m/s程度です。
朝と夕方、風がなくなり、朝なぎ、夕なぎといいます。

原子力発電所は海岸にありますので、天気の良い昼間、海風が吹きます。注意しよう。

   

※1 地球が自転しているので、北半球の人は、足もとを中心に地面は時計の針と反対方向へ(左回り)回転しています。(下図)
地球上の人は回転しているのが分かりませんので、遠くへ真っ直ぐ運動する赤い物体の方が、自転と反対の右方向へ、力を受けて向きを変えることになります。この力を転向力といいます。転向力は高緯度で大きく、赤道では働きません。

※2 水の比熱は大きい、(水1gの温度を1℃上げるのに1calの熱量が必要)で、水は熱しにくく、冷めにくい。
昼: 陸⇒岩石や砂は比熱が小さく、熱しやすく、温度が高くなる。 海⇒熱しにくい。波で撹拌され、温度は低い。
夜: 陸⇒岩石や砂は冷めやすく、温度が下がる。          海⇒昼間あたたまった海水は温度が下がらない。