「三人の王子様と三つの部屋」
作 橋本 了
むかしむかし、深い森にかこまれたお城で、年をとった王様が三人の王子様と暮らしていました。お妃(きさき)様が病気でなくなってからというもの、王様はすっかりふさぎこんでしまい、とうとう自分も重い病気にかかってしまいました。
病気がなおりそうもないと考えると、王様は三人の王子様を呼びよせて言いました。
「わしはどうやら、まもなく死んでしまうようだ。だから、この国をおさめる新しい王を、おまえたちの中から選ばなくてはいけない」
三人の王子様は、そんなことを言ってはいけません。もっと元気を出してくださいとはげましましたが、王様は聞き入れようとはしませんでした。
「いいや、自分の体のことは自分がいちばんよくわかる。わしはもう年寄りだ。おまえたちは三人とも一人前になったのだから、だれがわしのあとつぎにふさわしいか、今のうちに決めておくのだ」
すると、一番年上の王子様が言いました。
「なるほど、父上がそこまでおっしゃるのなら、わたしはその言葉にしたがいましょう。でも、いったいどうやって次の王を決めるのですか」
王様はこう答えました。
「お前たちは、この城にだれも入ってはいけない、三つの部屋があることは知っているな。
じつは、三つの部屋のどれか一つのなかに、王者の剣(つるぎ)という宝物が隠してあるのだ。三つの部屋にはひとりが一度しか入ることができない。おまえたちはこれからひとりずつ森に出かけていって、大昔に魔女が置いていったという魔法の鏡をみつけて、王者の剣のありかを聞きだしてくるのだ。うまく剣を見つけだした者が次の王となる。それがこの国の昔からのしきたりなのだ」
まず、一番年上の王子様が森に行くことになりました。三人兄弟の中でも、この王子様が一番勇気があって、剣の腕(うで)もたつという評判でした。森の奥深く進んでゆくと、なるほど王様が言ったとおりに、たいそうりっぱな鏡が、森でいちばん古い大木(たいぼく)の下に置いてあります。
「おお、これが魔法の鏡か」
王子様が鏡をのぞきこむと、そこにはたいへん美しい娘が映っていました。
「なんと美しい」
王子様はすっかり心をうばわれて、ずいぶん長いあいだ鏡をのぞきこんでいましたが、やがてはっとわれにかえると、美しい娘にたずねました。
「美しい娘よ、どうか教えておくれ。王者の剣はいったいどの部屋に隠されているのだ」
「はい、勇敢(ゆうかん)な王子様。王者の剣は左の部屋にございます」と、鏡の中の娘は答えました。
王子様は大喜びでお城に帰ると、娘が言った左の部屋に飛びこんでゆきました。でも、この部屋には床(ゆか)がなく、王子様はそのまま深い深い地面の底に落ちて死んでしまいました。
次は、三人のうちで一番知恵者(ちえもの)だと評判の、二番目の王子様の番でした。一番年上の王子様の時と同じように、魔法の鏡には美しい娘が映りました。二番目の王子様が王者の剣のありかをたずねると、娘は
「知恵者の王子様。王者の剣は左の部屋にございます」と答えました。
王子様はまゆをしかめて
「わたしはそなたほど美しく、心ひかれる娘に会ったことがない。だが、兄上はそなたのせいで命を落とした。どうして、そなたの言うことを信じられようか」と言いました。とたんに美しい娘の姿は消え、二番目の王子さまの顔が鏡に映りました。でも、顔はたしかに王子様でも、どこかがゆがんでいるような、なんともいやな感じがするのでした。
「おまえはなにものだ」
王子様に呼びかけられると、鏡の中の顔はにやり、と笑って
「わたしは本当のあんたさ」と答えました。王子様はなんだかとても腹がたちましたが、さすがは国一番の知恵者です。すばやく心を落ち着けると、なにくわぬ顔をして
「なるほど、では教えてもらおう。王者の剣はどの部屋にあるのだ」と鏡の中の顔にたずねました。
気味の悪い顔はもう一度にやり、と笑って「王者の剣は真ん中の部屋に」と答えました。
二番目の王子様はお城に帰るとずいぶん長いあいだ考えこんでいましたが、
「あの顔はわたしをだまそうとしている。おまけに、自分はこのわたしだと言った。それなら、わたしが言うことを信じないということも、知っていただろう」そうつぶやくと、わざと鏡にいわれた通り、真ん中の部屋に入りました。
この部屋は床(ゆか)がなかったりはしませんでしたが、中はがらんとしていて、どこをさがしても王者の剣は見つかりませんでした。
「ああ、やつの裏をかこうとして、そのまた裏をかかれてしまった」
二番目の王子様はそう叫んで頭をかかえると、その場にしゃがみこんでしまいました。
こうして、とうとう三番目の王子様の番になりました。この王子様は気だてはやさしいという評判でしたが、ほかの王子様たちほど勇敢(ゆうかん)でも知恵者(ちえもの)でもありませんでした。
「弱ったなあ、おいらに見つけられるくらいなら、兄さんたちが見つけたはずなのに?」
三番目の王子様は森の中を歩き回りながら、ぶつぶつ文句を言いました。
「これが魔法の鏡だな」
王子様が鏡をのぞきこむと、お兄さんたちの時と同じように、美しい娘が映っていました。
「きれいなひとだなあ。でも、鏡の中にいるんじゃ、およめさんにはできないな」
王子様がそうつぶやいたとたんに、鏡の中の娘の姿は消え、こんどは自分の顔が映りました。二番目の王子様のときと同じように、その顔はどこかがゆがんでいるような、なんともいやな感じがするのでした。
「うーん。これがおいらの顔かい。なんだか、ずいぶんいやな感じだなあ」
鏡の中の顔はにやり、と笑って
「わたしは本当のあんたさ」と答えました。
「へえ、でも、そんなこともないような気がするなあ。どこかちがっているもの」
「そう思うなら、かってにするがいい」
そう言い終わらないうちから、鏡の中の顔は消えかかっていました。
「おっと、待っておくれよ。王者の剣があるのは三つの部屋のどれなのか、聞いて帰らなくちゃ」と王子様は言いました。
すると、鏡の中の顔はにやり、と笑って
「王者の剣は真ん中の部屋に」と答えました。
三番目の王子様がお城に帰ってくると、二番目の王子様がそっと近づいてきて
「この城の跡(あと)を継ぐ者は、もう、おまえしかいなくなった。わたしはどの部屋に王者の剣があるのかを知っている。父上には秘密だが、おまえにそれを教えてやろう」とささやきました。
「ありがとうございます」
二番目の王子様はいっそう声をひそめて
「いいか、王者の剣は右の部屋にあるはずだ」と言いました。
ところが、思いがけないことに、三番目の王子様は申しわけなさそうに首を横に振りました。
「なぜ信じないのだ。気味の悪い顔が出てきて、剣は真ん中の部屋にある、と言ったのではないのか?」
二番目の王子様がそうたずねると、三番目の王子様は、ええその通りです、と答えました。
「いいか、わたしは真ん中の部屋に入ったのだ。兄上は美しい娘の言う通りに、左の部屋に入ったのにちがいない。それなら、残っているのは右の部屋しかないではないか」
三番目の王子様はもう一度首を横に振りました。
「兄さん、ぼくには、あの顔がうそをいっている気がしないんです」
二番目のお王子様は、なだめたりおどかしたりして、なんとか弟の考えを変えようとしましたが、最後にはあきらめて、おまえの好きなようにするがいい、と言いました。
三番目の王子様が真ん中の部屋のとびらを開けると、そこには金色に輝(かがや)く玉座があり、美しい宝石がちりばめられた立派な剣が載っていました。これが王者の剣にちがいありません。
王様は大喜びで三番目の王子様を新しい王様に決めました。知恵者の二番目の王子様の助けもあって、新しい王様をむかえたこの国はますます栄えたということです。
了