NO.116
遠野の旅(2)雲海 2021/10/4 08頁

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 遠野聞き書き
 
 遠野市には大型スポーツ用品店がない。もちろん、ユニクロなんかない。必要な人は花巻市まで買いに行くんだという。わたしのような旅人に使いやすいビジネスホテルもない。
 道を訪ねた70歳くらいの男性の述懐によれば、「若い人は皆都会へ出ていってしまう。家のせがれも仕事で大分に行っている」とのこと。そういえば、中心街に金融機関、保険会社が見当たらないし、大きなビルとか、商業施設がないから働き場所が少ないのかな。
 もっと分かりやすいのは『2021遠野市勢要覧・絵で見る市民生活』の出生10.42人、死亡44.32人(令和元年・1ヶ月あたり)数で、1年に生まれた赤ちゃんは125人、なんと亡くなった老人は532人。差引407人も減少。2040年には総人口が8000人減、正に消滅可能都市。
 104歳の母、78歳の病気の妻を抱える80歳の老農夫の話。 
 南部曲り家に代表されるように古くから遠野は馬産地としても知られ、昭和の終わり頃畜産が最盛期を迎えました。その名残がどの農家にある独特な家畜小屋。もちろ、住居とは別棟。老農夫の家でも農協の指導で肉牛50頭も飼育したことがあったが牛肉の自由化で廃業。その後、ほうれん草の栽培をやったが価格が下落。現在はアスパラガスを勧められているが、もう歳だからやっていない。
 それより困っているのが、「景観保護」。遠野には「遠野遺産認定制度」という市独自の制度があり、「遠野らしい農村景観や、それを構成するあらゆ る文化資源や自然を将来にわたって継承していく ために」「これまで地域が守ってきた文化資源等」を「遺産」として推薦するもので、佐々木喜善の生まれた旧土淵村山口では遺産の網をすっぽり被せられて空き家でさえ簡単に壊せない。すぐ、市役所の職員が翔んでくるという。
 もう一つ。遠野市には家の周りに太陽光発電が見当たらない(山中に、外資系の巨大メガソーラーが2ヶ所あり)。これも民話のふる里遠野の景観にそぐわない、ということでしょうか。共有の放牧地や遊休地がいっぱいあるのにもったいない話ですが、太陽光パネルはやっぱりだめか。「遠野物語」を片手にやって来る観光客には目障りかな。
 でも、東の山並みには真っ白な風力発電機がズラーッと並んでいます。思わず、遠野にはそぐわない、違和感を感じるなあ、と思いましたが発電機はすべて釜石市の領分でした。わたしにとっても遠野は妖怪の棲む風景が永遠に続いて欲しい。さて、生活か観光か、どうしたものでしょうか。

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