起動実験

 

ゴオォォォー・・・

同時刻ローレライ宙域。その昔、この宙域では隕石と宇宙船の衝突事故で一人の女性が死んだ。

名はローレライ、歌の好きで彼氏に会いに行く途中の出来事あった。その後、宇宙船の事故、行

方不明などが絶えない、航行する少数の宇宙船の間では、女性の亡霊の歌までが聞こえてくると

言う噂もあった。人々は、この宙域の事を『死の宙域』もしくは『宇宙の墓場』と言って避けて

いた。そして、その女性の名を取ってローレライと呼ばれるようになったのは、言うまでもない。

そんな宙域に三隻のエディン国籍の戦艦が集結して、新大型戦艦エディンのRISCによる起動

実験が行われようとしていた。

RISCはプリットと違いチップで出来ており、中央に核と呼ばれる物があり、人間の瞳に似て

いた。このチップは意志を持っており、総合能力ではプリットの約三倍と推定されていた。しか

し、チップは人間の持つ意志とは違い偽意志(ダミー)の為、制御仕切れないと言う欠点があり、

一度暴走してしまうと手が付けられない。実際、ノウェル法(ノウェル星系全体の法律、条例)

でも、その手のチップの設計、製作を硬く禁止している。

それを知っていたエディン軍事上層部では、他国には極秘にしたい事柄でもあった為、このイワ

ク付きの宙域は、都合が良かった。

星域では戦艦エディンを中心に、二隻の駆逐艦クラスの戦艦が左右に展開し警戒している。駆逐

艦は、エディンの1/3程度の大きさしかなく、赤い船体にはラグナクロス。そして青い船体に

はコルネットと艦名がマーキングほどこされている。

エディンは、大きさもさる事ながら、母星の名を付けられるくらいの期待と最先端テクノロジー

が詰め込まれていた。その姿は、さながら宇宙という湖を優雅に進む、スワンの様な感じであっ

た。

そのエディンのブリッジ(艦橋)では、艦長らしい女性が中央に座り、その正面には、立体映像

化された、星域が映し出されている。そして、左右のオペレーターの女性達が次々と指示を出し

緊迫した状況が続いていた。

「こちらブリッジ、RISCとのシンクロ開始五分前です。システムの再チェックお願いします」。

「了解」

「エディン側のシステムチェック始めます」

「RISCの最終チェックお願いします」

「システム問題ありません」

「RISC問題ない」

「オールグリーン。全て問題ありません」

「艦長、準備できました」

中央に座っていた女性が立ちあがり、口を開く。

「これより戦艦エディン及びRISCの起動実験を開始する。第一次警戒体制のまま待機するよ

う駆逐艦ラグナクロスならびにコルネットにも連絡」

「了解」

「全ての乗組員に告ぐ、・・・」

 

戦艦エディンのメインCPU制御室では、数人の助手(エンジニア)が忙しそうに器材を調整し

ている。その中に、助手達に指示を出すディアンシェの姿があった。

マザーボードは、制御室の隣に特殊なガラスで遮られた薄暗い空間に置かれ、中央のクリスタル

では、緑の耐熱液体の中で、RISCが接続を待つのみとなっていた。

「ブリッジより制御室、最終確認終了、問題ありません。実験開始してください」

オペレーターの通信が制御室内に響き渡った。

「それでは始めようか・・・」

ディアンシェが機器を巧みに操作しながら口を開いた。

制御室に緊張がはしり、数人の助手達が、室内を動き回り慌ただしくなる。

「RISCの安全装置解除」

「システム全てにファイヤーウォールをLv5で展開」

「RISCをマザーボードへの接続を開始します」

「パルス正常。問題ありません」

液体の中で静かに、ゆっくりとRISCが沈んで行き、マザーボードと接続される。

「パチッ」

静かな空間にひときは大きく、その音が響いた。

助手達は多数のモニターを見ながら、状況を報告を始めた。

「RISCへのアクセス開始」

「シンクロシステムを作動させます」

「シンクロ率10・20・・30・・・・40%と上昇中」

「RISCに異常在りません。安定しています」

「よし、シンクロ率を50%に固定」

「固定します」

「システム使用可能です」

「よし戦艦のメインシステムをプリットからRISCに移行する」

「制御系より順次システムを移行します」

「移行率・・・10%・・・20%・・・」

「シンクロ率変化なし」

「マザーボード内も正常に推移」

「システムにバグ、エラー等も認められません」

「70%・・80%・・・90%・・・」

「博士、全てのシステムの移行を完了しました」

「依然RISC正常に作動中・・・艦内の制御系にも異常は認められません」

「ディアンシェ博士・・・」

「皆よくやってくれた。成功だ」

助手達のあいだから拍手と歓喜が沸きあがる。

「制御室よりブリッジ、成功です。RISCは問題なく作動中です」

「こちらブリッジ、了解しました。皆さんお疲れ様」

成功の知らせに乗員達は、近くの者と手を取り労をねぎらい艦内は歓喜に沸いた。

「ふーっ、なんとか上手く行ってくれたか」

ディアンシェは一息付くと、近くにあった椅子に腰を落とし天を仰いだ。一瞬、目を閉じる。

すると今までの苦労が走馬燈の様に思い出され、凄く長い時間のように感じられた。

「んっ、」

「お疲れ様です」

女性助手の一人がコーヒーをディアンシェに手渡した。

「あ、ありがとう」

「これで、歴史が変わればいいのですが・・・」

「ああ、そう願いたいものだ」

ディアンシェは持っていたコーヒーを一口すすった。

その時、異常を示すランプが点滅し、室内に警告音が響いた。

「か、核に異常が認められます」

「な、なに!」

ディアンシェは持っていたコーヒーカップを落とし、室内に割れる音が大きく響いた。

椅子に座わっていたディアンシェが、立ち上がり、RISCの映るモニターに目を移した。

「安定していたのに、どうしたというんだ」

「シンクロ率に異常発生!みるみる上昇していきます・・・」

「90%突破しました」

「皆、焦らずデータを再チェックしてくれ」

「はいっ」

「ゲ、ゲージが振り切れました」

この報告に制御室内の動きが一瞬とまる。

「デ、ディアンシェ博士!!み、見てください。か、核が赤く光っています」

「あ、ぁぁ・・血の涙を流している」

RISCを見ていた一人の助手が呟く。そして、モニターは次々と『DANGER』の文字で埋

め尽くされていく。ディアンシェは、昔見た光景が脳裏に過ぎった。

「博士、RISCが戦艦を侵食し始めました」

素早く我に返り、助手達に適切な指示を出す。室内は一変し地獄と化した。

「急いでマザーボードより、RISCを強制離脱させろ!!」

「状況をブリッジに連絡。あと艦内のシステムに接触中のプリットをシステムから直ちに隔離し

ろ」

助手達が機器を操作していた手付きには、あからさまに動揺が見えている。

「だ、駄目です。マザーボードが命令を受け付けません」

「だったら、手動に切り替えてやれ」

「分かりました」

額に汗を浮かべながら助手は頷くと、レバーに覆い被さったガラスを拳で叩き割ると、素早くレ

バーを引いた

「・・・カチッ、カチッ」

「コ、コントロールが効きません。マザーボードへの制御が失われています」

これはデェジャヴか・・・あの時と一緒だ。早くRISCを破棄させないと。このままだと、戦

艦全体のシステムが侵食されのも、時間の問題・・・。

「ファイヤーウォールが次々と破られていきます」

「くっ、足止めにもならないのか」

「博士っ」

「ファイヤーウォールを再構築、少しでも時間を稼ぐ」

「博士、このままいくと45分後には、この戦艦はRISCの手に落ちます」

この報告にディアンシェは選択を迫られる事になる。このままRISCを押さえ込むのに費やす

か、もしくは戦艦を破棄し脱出するか。ディアンシェにとってRISCが暴走した時点で選択肢

は決まっていた。

「ブリッジに連絡、直ちに退艦命令を出すように伝えてくれ」

「で、でも」

「博士、RISCの侵食のスピード上がりました」

「早くしろ、手遅れにならない内に」

「わ、分かりました」

「制御室よりブリッジへ」

「あっ、こちらブリッジです。システムが次々とRISCに奪われていきます。詳しい状況を伝

えてください」

「り、RISCは戦艦の全てのシステムを侵食する模様、もって45分」

「た、たった45分ですか」

「残念ですが・・・短くなる事はあっても長くなる事はありません。この状況を考慮した上、乗

組員の退艦を求む」

「了解しました」

「艦長・・・」

「艦内に連絡入れます。繋いで頂戴」

「はいっ」

オペレーターの女性が艦長に向かい、マイク繋がった旨合図を送った。

「全乗組員の皆さん現状況を説明します。RISCの制御に失敗、最悪な結果となりました。一

応、想定していたマニュアルに従い、艦内の乗組員はRISCに関するデータ等は全て抹消し、

速やかに退艦してください」

艦長は一息つき、顔を上げると艦橋の人達を見回した。

「駆逐艦ラグナクロス、コルネットにも救助要請の連絡を入れてちょうだい」

「分かりました」

「あなた達も急いで、作業の終わった人から退艦してちょうだい」

艦長は椅子に深く座り直し、何事にも動じない毅然とした態度をしめした。

 

ディアンシェのRISCに対する必死の抵抗がなおも続いている。その姿をボッと見ている助手

達に叫ぶ。

「ここは私に任せて、お前達も早く退艦しろ」

「しかし」

「もう、この艦は駄目だ。全てのシステムがRISCに奪われるのも時間の問題だ。そうなれば、

脱出も間々ならなくなるぞ」

そう言われると、助手達は次々と制御室を後にした。

「博士も早く、ここを離れましょう」

話し掛けてきたのは先刻コーヒーを入れてくれた女性助手だった。

「私は何とか皆を逃がすだけの時間を稼ぐ、君は皆と一緒に退艦するんだ」

「では、私も手伝います」

「こんな事するのは、私、一人で十分だ」

「で、ですが・・・」

「いいから、私に構わず、さっさと行きなさい」

するとRISCが、眩いまでの光を放ち制御室を覆った。

「なに、お、お前は天使・・ワワワワ・・・・」

 

 

 西洋をイメージして造られた街のショッピングモールは、制服を着た学生やOL、カップルな

どで賑わいを見せていた。ショッピング街には、ブティックやアクセサリーなどの多種の店が中

央の広場を取り囲む様に並んでいた。その広場の中央に置かれたレンガ造りの大きな噴水のほと

りに一人の男がいた。

「く、くそ〜はめられた」

「ヴァイくーん。ち、ちゃんと待っててくださいね」

そう言いながら、ミシュタルが手を振りながら、店の中に入って行った。

看板には『シザーハンズ 』とある。旧世紀の映画で、そんなタイトルのものがあったが、特に

意味はない。

ここは、プリットでも使用出来る美容院で、スタッフの大半がリプリットある。店長はヴァイと

も面識が在った。っというより、過去にナンパされたらしい。

 リプリットとは、マスターのいないプリットの事で、大半はバージョン落ちなどで用済みのプ

リットの事を言う。この様に自分で職を持っている事自体まれで、ほとんどのリプリットは人生

を捨て、人間の性欲を満たす道具となっていた。これが、一部の人間からプリットが人形(ドー

ル)と言われる由縁である。

「はい、はい、分かりました。どうぞ、ごゆっくり」

ヴァイは待たせるのは好きだが、待たせられるのは苦手のようで、気の無い手振りでミシュタル

を見送った。

「いらっしゃいませ!どうぞこちらへ」

「あちらの方はマスターでは?店内でお待ちになる事も出来ますが・・・」

気を利かせた店員が訊ねた。

「いいえ、大丈夫です。ジッとしていられない人ですから」

ミシュタルは店員にそう言うとニッコリとして、店の中へと消えて行った。

「フーッ・・・」

ヴァイは一息つき、辺りをキョロキョロと見回す。

「ん・・・」

「キャハハ・・。」

「おっ、良く見ると周りは可愛い女性ばかり、それもシングル。ここは、私こと愛の伝道師の出

番ではないか」

そんな自分の世界に入りつつあるヴァイは、ちょうど、ブティックから出て来たOLぽい女性と

視線が合う。

「ハァーイ」

ヴァイはニッコリと笑いながら、手を振る。すると女性は、一瞬、苦笑したかと思うと。

「ベェーだ」

ま、こんな事はいつもの事であるが、単なるナンパである

「そこのお若いの鼻の下が伸び切っておりますぞ。女性ばかり見ていないで、こちらをご覧にな

ってはいかがですかな」

「彼女へのプレゼントにペンダントなどかいかがですかな」

鼻の下にヒゲを蓄え、髪はオールバックまるで紳士と言ういでたち、ダンディと言う言葉が似合

う、渋さムンムンの店主が話し掛けてきた。今までの事を一部始終見ていた様である。

「あ、ガレージセール(路店)か・・」

休日ともなると噴水の回りには沢山の路店が並ぶ光景がみられる。しかし、今はポツリポツリと

しか見当たらない。

「どうですか?気に入って頂ける物が見つかるとよろしいのですが」

店主は、シートに綺麗に並べられた品物を色々と薦めてきた。品物は手作りのアクセサリーが中

心でデザインもそんなに悪くはない。一部空きがある所を見ると売れているみたいだ。

「どれどれ・・・ちょっと高いない」

ヴァイは、そんなこと言いながらも、胸の前で腕を組み品物を見定めしている。

「そう言えば、さっき美容院に入って行った方、彼女なんでしょ」

「まっ、近からず遠からずと言ったところかな」

「・・・」

「んーっ、どうしょうかな・・・・でもなぁ〜」

ヴァイは何か言いずらそうな顔つきであるが、吹っ切ったように、指を差し口を開いた。

「爺さん、そのペンダントが欲しいんだけど、駄目かな」

ヴァイが指を指したのは以外にも、店主が首から掛けているペンダントだった。

「おお、このペンダントですか。いやいや困りましたな、これは残念な事に売り物ではないんで

すよ」

「無理だよね、やっぱり」

店主は、首から掛けたペンダントを手に取り、口を開いた。

「どうしてもと言うのであれば・・・・」

「ほんとに」

「一つ聞いても宜しいかな。あなたは、このペンダントをあの彼女に差し上げるのかな?」

「そうだけど」

「それでは、あなたにはご遠慮願いたい。人間に上げるのならともかく、人形では」

店主の顔が険しくなる。

「私は、大の人形嫌いでね」

「人形・・・全てお見通しか・・」

ヴァイは『人形』と言う言葉に過敏に反応し、顔つきが変わる。怒りに満ちた表情になった

「ああっ、そうかい分かったよ。そんなペンダントなんか要らないよ。こちらから願いさげだ」

店主は、そんなヴァイの事を気にせず淡々と続けた。

「外見は人間そっくりでも、永遠の若さを持ち、飛びぬけた頭脳を持ったA・Hを操る化け物、

そして結局は子供も産めず戦争で死んで行くだけの道具なのだよ」

「全くヘラヘラと口の減らない爺だな、そんな見方しか出来ないのか、プリットだって人間だ。

傷つけば血を流すし、命も永遠ではない。それに生きていく為、仕方なく成った者だっているん

だ」

「そんな事言って、このままプリットを増やしつづけてみなさい、驚異的な頭脳の前に、いつし

かプリットに支配される世界がくるぞ」

「自分達がプリットより劣り、嫉む心がそんな考えをおこし偏見を生んだ・・・彼女達をどうし

て『希望』として見て上げられないんだ。

「くだらん、彼女達は、この世界に存在してはいけない物なのだよ」

プリットをけなす事に、ヴァイは感情を抑えきれずにいた。

「これ以上話しても埒が明かない。それじゃ」

ヴァイはそう言い放つと背を向け立ち去ろうとした。すると、店主の顔は先ほどとは打って変わ

り、商い時の顔になっている。

「わっははは・・・すまん、すまん、君を試させてもらった。このペンダントを持つに相応しい

かどうかを」

「えっ?」

背を向けていたヴァイが後頭部を殴られた様な表情で振り向く。

「実を言うとな、私は、元A・Hのパイロットでな。私にも可愛い彼女(プリット)がいてな。

昔はプリットを大切にしたものだが、それが、今はどうだ、時代の流れで大量の育成が可能とな

り、ちょっとバージョンが上がっただけで、古いプリットは交換され捨てられる。一層使い捨て

の道具感強くなっている。でも、君は違った。君はプリットを愛する気持ちを持っている」

ヴァイは試されていた事に、マジなった自分が照れくさそうだ。

そうだ名前聞くの忘れていたな、宜しければ教えてくれないか」

「愛の伝道師、ヴァイ・リースだ」

「いや、愛の伝道師はいらない(汗)」

「そうですか・・・(残念)」

「このペンダントは、私もある人物に貰った物なのだよ。その時に聞いた話なのだが、このペン

ダントには、古い言い伝えがあって・・・」

店主の話は、一時間に渡り続いた。

ヴァイは疲れ果てた表情で、もう、どうでもいい感じだ。

「とっ言う訳だ。さあ、持って行きなさい」

「いいのか?」

店主は無言で頷いた。

「これからは、君達、若者の時代。私みたいな年寄りは去り逝くのみ。このペンダントを笑顔の

似合う彼女に。仲良くするんだよ、きっと君にこたえてくれるはずだ」

「あ、有難う」

店主からヴァイは、照れくさそうにペンダントを受け取る。っとその時、聞き覚えあるの声が聞

こえて来た。

「ヴァイくーんっ」

「あ、ミシュ」

ヴァイが振り向くと、そこには、今までとは、イメージの違うミシュタルがいた。

「ど、どうですか?・・・に、似合っていますか?」

「え、ショートにしたんだ・・・猿みたい」

冗談半分でヴァィが答えた。すると、ミシュタルは頬を膨らませ、ちょっとムッとした表情にな

った。

「ゴメン、ゴメンそれなりに似合っているよ」

「それなり?」

「そんなことより、君に紹介したい人がいるんだ、今知り合ったんだけど」

「おーいっ、爺さん。彼女が俺の・・・」

「あれ、おーい爺さん?」

「誰もいないじゃないですか。全くヴァイ君はいつもそうやって・・・」

ヴァイは、店主の話を聞き、自分と同じだと言う事を知り、自分のパートナーであるミシュタル

を紹介したかったに違いなかったが、そこには、路店はおろか、人っ子一人いなかったのである。

「おかしいな〜、確かに、そこにいたはずなのに」

「もーっ、そんな事より、まだまだ私に付き合ってください。早く、早く」

ミシュタルはそう言うとヴァイの手を取り、またまた町の中へ消えて行った。

 

 

「こちら駆逐艦ラグナクロスどうしたんですか?」

「RI・・S・Cが、・・ぼ、暴・走・・失・・・敗・・」

「き、聞こえません。ど、どうしたんですか」

「エ、エディンが発砲してきました」

「バリア展開」

「エディンとの通信不通。返答ありません」

「コルネットが被弾!!」

「エディンより数機の脱出ポッドを確認」

「弾幕を張って援護しろ」

「ポッドはラグナクロスに収容する。準備急げ」

「1番、5番砲塔大破!」

「バリアもちません」

「流石に戦艦クラスが相手だと、ちときついか。もう少し踏ん張ってくれよ」

その時、艦内に大きな振動が走った。

「Cブロックに直撃!火災発生しました」

「7番から9番砲塔大破!動力部被弾、出力70%に低下しました

「艦長、戦力差があり過ぎます。こ、このままでは」

「ポッド収容完了しました」

「よし、コルネットを援護しつつ、宙域を緊急離脱する」

「最悪の事態になったな」

「詳しい事が聞きたい、脱出して来た者の中の上官をブリッジに呼んできてくれ」

 

 

暗闇の中、空間がスクリーンとなり、戦況を映し出されている。

ディアンシェは、コードに体や腕を巻かれ宙吊り状態で、さながら、キリストの様にも見える。

巻き付いたコードは、容赦なく、ディアンシェの肉体を締め付けた。

「ん、んん・・・」

ディアンシェは、意識を取り戻す。

空間が水面のように波紋を描き、一人の裸体の女性が現れた。

女性の体は、透き通っており3D立体映像の様にも見えるが、実態が在るのである。

「イマ、オ目覚メデスカ父様。私ハ、RISCノ分身。リア」

リアは、黄金の前髪を胸まで垂らし、耳には、十字架を似せたイアリングが怪しく光る。顔はピ

エロ風のマスクで覆っている為、表情までは読み取れなかった。

「ドウデスカ父様。父様ガ私ニクレタ、力 ソノ身ヲモッテ味アウ気持チハ」

「R、RISC・・・いやリア。どうして、こんな事をする」

うつむいていたディアンシェが顔を上げた。その瞬間、架けていたメガネが壊れ暗闇へと落ちて

行った。

「サテ、ドウシテカシラネ」

「しかし、な、情けない。じ、自分の造った物に殺されるか、後世の科学者が聞いたら、どう思

われるだろうな、無様と笑われるだろうな・・・」

「フフ・・ソレモ面白イワネ」

「ネエ、ソレヨリ見テ、コレガ父様ガクレタ『意志』ノ 力」

リアは、両腕を広げ背後に映し出された戦闘映像とともに、ディアンシェに訴えかけてきた。

「もう止めるんだ。こんな事をして何に成るんだ。私は、リア、君をプリットの『希望』

の為に造った。もう、戦いで死ぬプリットなんて見たくない、プリットなんて必要ないんだ。発

達した科学はそこまで来ている。その為にRISCを。しかし、君自身『絶望』の為、動き出し

てしまった。どうして分かってくれない」

「分カッテイルワ。『希望』ダカラ人間ヲ殺スノヨ、私ハ」

リアは嬉しそうに答える

「プリットガ、道具トシテ扱ワレナイ世界。プリットダケノ世界ヲ創ル為ニ、人間ハ邪魔ナ存在

デシカナイ」

「そうやって夢物語の楽園でもつくるつもりか・・・」

「父様ハ、ソコデ ユックリ見テイルトイイワ。私ガ歴史ヲ変エテ上ゲル、プリットノ『希望』

ノ為ニ」

「それは違う」

「父様ガ歴史ノ証人ニ成ルノヨ」

「考え直すだ。まだ、遅くない」

「モウ、私ヲ止メラレル者ナド誰一人トシテ・・・」

何かを感じ取ったしぐさを見せるリア。

「ン、要ル。私ト同ジ ヲ持ッテイル」

「やめろ、彼女には手を出すな、そっとしておいてくれ」

「一度ゴ挨拶ニ行カナイト・・・」

「頼む。もう・・・・止めて・く・・れ・・」

「ウルサイワネ、少シノ間眠ッテイテ」

ディアンシェは、コードに締め付けられ、再び気を失った。