出撃

 

 

惑星エディンの衛星軌道に浮かぶ、白い円盤型軍事要塞シルバーファウンデーション。

シルバーファウンデーションは、戦艦に搭乗の為の中継地点として利用され、戦艦十五隻

を格納可能とし、戦艦の修理、新造などもおこなっている。そして、惑星軌道上の防衛機

能も有しているのであった。

その、シルバーファンデーションにヴァイ達が乗ったシャトルが到着した。そして、数時

間後れで、もう一隻、A・Hを積んだシャトルが接岸した。

ヴァイにとってシルバーファウンデーションには、余り良いイメージはない、大抵が軍に

よる緊急命令や軍事命令がかかっているからだ。そして、行き先は決まって第十三番ドッ

クである。そんな訳でヴァイ自身、シルバーファウンデーションの中は第十三番ドックま

での道筋じしか知らなかった。

その第十三番ドックには、航行準備のできた白い駆逐艦ウインダムが接岸されていた。

ウインダムは第十三部隊の直属の戦艦で、目的地までの輸送、補給、戦闘をおこなって、

数々の修羅場を共に乗り越えて来た。スペックも駆逐艦でありながら、A・H十体の格納

を可能し、戦艦並みの武装をしていた。

そして驚く事に、このウインダムの艦長は若干二十歳の女性だった。女性で有りながら、

仕官学校を主席で卒業し最年少艦長についた。その彼女がこの地位にいられるのは、理論

ではない実戦での作戦成功率、的確な状況判断、神技的采配は乗組員の誰もが認めていた

からである。

ヴァイ達は、第十三番ドックに行く途中、何やら騒がしいドックを通りかかった。そこに

は、艦体の至る所から火花と煙を出しボロボロに被弾した戦艦が停泊され、消化と救助に

追われていた。

「これが、ラ、ラグナ・・クロスだと・・・ひでぇな、よくここまでたどり着いたな」

「ああ」

ちょうど、ラグナクロスから出てきたタンカが、ヴァイ達の目の前を通り過ぎる。タン

カにはプリットが横たわっており、腕一本を失い精神崩壊寸前の状態であった。

「すみません。どいてください、急患なんです」

「うっうう・・あぁーっ」

思わずミシュタルが目を背ける。初めて見る残酷な光景はミシュタルにとっては衝撃的だ

ったのかもしれない。

「私も一歩間違えばこうなるの?」

いつしか怪我をしたプリットと自分自身をダブらせていた。

ヴァイがミシュタルの肩に手を置くと、そっと声を掛けた。

「心配するな、あの程度の怪我なら大丈夫だ」

この時代、医学の進歩は目覚しく、腕の一本や二本失っても時間は掛かるが再生できた。

これも人が沢山死ねばこその戦争による恩恵である。

ヴァイ達は悲惨な光景を横目に改めて気を引き締められた。

 

 

乗艦後、ミシュタルはレイリアに連れられ、『男子禁制』のプレートが張られたプリット

ルームへと入って行った。プリットルームには、シャワー設備・化粧台などが置かれ、さ

ながら女子更衣室である。

中には数人のプリットがおり、十三部隊の他にも護衛隊、艦制御プリット達も混じってい

た。プリット達は思い思いにシャワーを浴びたり、プリットスーツへの着替えや化粧をし

ている。

プリットスーツとは、プリットの為に作られたボディスーツで、戦闘時の衝撃などを和

らげ、気温の変化にも対応できるように、スーツ内は常に常温に保てる様になっている。

見た目は、レオタードに近く、伸縮制にも良く動き安さに長けていた。

プリットには、化粧などの自由が許されていた。それはマスターの戦闘で、ただ死んで行

くしかない為に許された、ほんの一握りの幸せである。

ミシュタル達がシャワーを浴び終わり着替えを始めた頃、今回の命令に付いての話が始ま

った。隣にいたレイリアは興味が全く無さそうに、黙々と着替えている。

「ところでさぁ。急にスクランブルなんて、何かあったのかしら」

「あっ、私、知ってる。なんか新しく造ったチップが、暴走したんだって。確か、RIS

Cって言っていたような」

「RISCって言ったら星系法で禁止されている物よね」

「その事なら、そこの方が詳しいんじゃない」

「えっ、誰ですか?」

「ほら、そこに居るレイリアよ」

「レイリア、同じエンジニアに造られたんだ」

「暴走しちゃったりしてーっ、うふふふっ・・・」

「やだー、恐いね」

「もー、最悪」

「そう言えば、そのエンジニア相当の変わり者らしいわよ」

「ち、ちょっと、こ、声が大きいわよ」

ミシュタルは初陣の為か必要以上に不安が過ぎる。もしかしたら自分が暴走し、ヴァイ

を殺してしまうのではないかと言う気持ちに駆られる。

「レ、レイさん。私達まで・・・」

「大丈夫よ。父様を信じなさい」

レイリアは至って冷静で、ミシュタルに暖かい眼差しを向け答えた。

「レイリア。もし、そんな事になったら、私達が殺してあげる残念だけど仕方ないの・・

・避けられない運命なのだから」

「分かっているわ」

一応、A・Hにはプリットの制御不能の際のセーフティー機能はあるものの、戦闘中のプリット

の暴走は多少なりとも例があった。

ミシュタルは、自分がなんなのか分からなくなっていた。だか、それを受け入れなけれ

ばならない事も事実であった。

「私達って何の為にいるの?これがプリットになった宿命・・・」

 

 

  一方、ミシュタル達と別れたヴァイとライーズは、ウインダム作戦会議室へと入って行

く、中には軍服に身を包んだ部隊のメンバーと艦護衛部隊の面々が、もうすでに揃ってい

た。

第十三部隊、通称「ラブキューピット隊」はグラサンをかけた隊長のロイ・ルフィード

と、黒人で口数の少ない体格の大きなマロニ・ディバイス、そして、コテコテの大阪弁を

使い、バンダナを頭に巻いたシレンツ・ナーズの5人で構成されている。性格などはどう

あれ腕前はトップクラスである。

二人は室内に入るなり敬礼をすると、空いている席に座った。そして全員が揃うとロイと

ウインダム艦長が正面に出て来た。隅では隊長のプリットがミリスが機器の操作をしてい

る。そして、作戦の説明を始めようとしたその時、後方のヴァイ達が今入ってきたドアが

開いた。そこから現れたのは、赤いドレスに身を包んだ女性だった。ドアに目を向けたシ

レンツが軽く口笛をふいた。

「王女様」

艦長が予想外の訪問者に口を開いた。

セレネ王国の王女で先代の国王の娘にあたる。名をルナ・リスライド・フィル・エディン

Zと言った。

「私に構わずに続けなさい」

王女は、後ろに下がっていたメイドが用意した椅子に座った。

ロイは、王女に向かい一礼すると、気を取り直し説明を始めた。

「それでは、今回の作戦を説明する」

「まず、戦艦エディンはRISCに侵食され、内部からの制御が完全に不可能となってい

る」

「つまり、RISCがエディンを制御している訳やな」

「やっかいだな」

「プリットでないだけにな」

「うむ」

「そこでローレライ宙域に入り次第、駆逐艦ウインダムで接近、エディンの射程ギリギリ

の所でA・Hを出す。そして、ウインダムは誘導作戦に移り、エディンをそちらにに引き

付ける。その間にA・Hは、大きく迂回しエディンに接近し、艦内に突入する。そして、

目標のRISCを破壊する。まっ、大雑把ではあるがこんな感じだ」

「なにぶん情報が少なくて、あとは状況判断で臨機応変となります」

「それと艦内の防御システムなんだが、突入時に作動するにかも知れん十分注意して侵入

してくれ」

「マジかよ」

「あくまで目標は、RISCの破壊にある。他は無視して構わん」

「簡単に無視できたらいいんだけどな」

「以上だ。質問あるか」

ヴァイが手を挙げる。それを見た隊長が合図する。

「艦内に残った人達の救助はどうなるんだよ」

「その事なら大丈夫です。情報が入って来ています」

横にいた艦長が返答する。

「なぜかは知りませんが、一人を除いて全ての乗組員がブリッジに居る事を確認していま

す」

後ろで静かに聞いていた王女が沈黙を破り聞いてきた。

「その一人と言うのは?」

「ディアンシェ博士・・・」

 「ディアンシェが・・・」

「しょうがない、RISCとの御対面のついでに連れてきてやるか」

「乗組員の救出は、こちらで最善を尽くしますので、突入部隊の方は作戦に専念してくだ

さい」

「他に質問は・・・無ければ、これで終わる」

その時、赤いドレスの皇女がスウッと立ち上がり口を開いた。

「皆さんすみません。全ての責任は私にあります。あの星系法を無視してまで作ろうとし

たRISC、私はそれに希望を求めていたんです。今のプリットの現状を変えられるので

はないかと・・・しかし、結果はこのような形になってしまいました。どうかお願いしま

すRISCを止めてください。勝手なお願いかもしれませんが十三年前の悲劇は繰り返し

たくないんです」

皇女は皆に向かい頭を下げていた。

「そんな事当たり前じゃないですか」

「それに美人からの頼みやしな」

集まった面々は、笑いと共に皇女に向かい笑顔を向けた。

「あ、ありがとう皆さん」

皇女は側近のメイド達に支えられ頭を上げた。

「各自、A・H準備を急いげ」

「それでは作戦の成功を祈ります」

一同起立し敬礼をすると各自部屋を後にした。

 

 

 「全乗組員に告ぐ、これよりウインダムはシルバーファウンデーションを出港いたしま

す。多少の揺ますので気を付けてください」

艦内アナウンスが入る。

A・Hのハンガーでは作戦をまじかに控え整備が急ピッチで進められていた。辺りからは、

整備員達の声があちらこちらから飛び交い合っていた。

「急げよ野郎ども、時間が無いんだからな分かったな」

「コックピット回りを宇宙用に交換」

「装甲、バッテリーパックのチェック」

「バランサーの調整も忘れるな」

忙しさのラッシュを向かえたドックを横目に、隅の一角では、会議を終えたヴァイとA

・Hの設定を終えたレイリアが楽しそうに話しを交わしていた。

「ウフッフフ・・本当に」

「それでさ・・・」

「面白いですね」

「それじゃ、今度無教えてあげるよ」

慣れていない艦内で迷っていたミシュタルの瞳に二人の姿が映った。

「あっ、」

その瞬間、意志とは無関係に体を壁に寄せて隠れていた。

「どうしたの私、出て行けばいいじゃないの。こんな所に隠れたりしてヴァイ君とレイさ

んの関係が気になっていると言うの?」

ミシュタルはうつむき、複雑な思いに出口の無い心の迷宮を迷っていた。

「お久しぶりミシュ。どうかした?そんな浮かない顔して・・・」

壁の隅に寄りかかったミシュタルにエレアが声をかけて来た。

「あっ、エレアさん。お久しぶりです。私、そんな顔してました?」

あからさまに分かる作り笑顔に、エレアは不思議に思い壁の向こうを覗き込んだ。

「は、はーん、そういう訳ね」

「あの二人が原因ね」

ミシュタルは全てを悟られたせいか、またうつむいてしまった。エレアはそんな姿にウ

ブさを感じた。そして、恋愛豊富なエレアとしても、妹分が悩んでいるのを黙って見過

ごす事は出来なかった。

「じゃ、元気が出るか分からないけど、おまじないを教えてあげる」

ミシュタルは興味深そうに顔を上げた。

「実は、あの二人・・・兄妹なの」

「兄妹?!」

「兄妹と言っても、知っているのは馬鹿兄貴のヴァイだけ。レイはプリットになった時

に全ての記憶を失ったの・・・」

「えっ!」

「不思議ね、アイツと話している時のレイって、あんなに生き生きしているじゃない。

でもね昔はヴァイにも口数が少なくてさ、暗い感じだったの。だからヴァイの奴、何とか

しようって、ああやって馬鹿みたいにコミュニケーションとり続けたわ。そしたらレイた

らいつの間にかあんな表情するようになったの。そしてねヴァイったら、もっと心を開か

せて、いつも明るい妹にするんだって。」

「・・・そうだったんだ」

「そんな訳で安心して、ヴァイは妹としてしか見ていないから」

ミシュタルの表情には、驚きと共に複雑な気持ちが込み上げて来た。

「あっ、ゴメン。これヴァイに口止めされていたんだ。この事は他人には内緒ね」

エレアがミシュタルに向かい、口に人差し指をあて、ウインクして見せた。

「ちょっとは元気になったかな〜っ」

「私限定のおまじないですね」

ミシュタルはヴァイの本心を知り安らぎを感じていた。

「と、ところで今日は」

「あ、そうそう、ヴァイに頼まれていたあなたのA・Hを持って来たのよ」

「私のですか?」

「そうよ。ヴァイがねミシュの為に造ってくれって」

「ヴァイ君が・・・私の為に・・」

「今、イフがあなたのA・Hのセッティングをやっていると思うけど」

「私、手伝って来ます」

ミシュタルは小走り暗闇に消えていった

 

 

 宇宙港の見えるガラス張りの展望室には、数人のメイドを連れた王女の姿があった。

王女は胸の前で手を組み祈っていた。

「お願い・・・兄さん無事でいて・・・」

そんな姿を横目に、白い船体の駆逐艦ウインダムは出港して行った。

王女の祈りは、船体が見えなくなるまで続いた。

 

 

 新しいA・Hの格納されたドックのハンガーでは、つなぎを着た若い整備士が数人で調

整をしていた。班長らしき白髪の熟練整備士がグラサン越しに機体を見ている。

「これか、エレアお嬢ちゃんが持ってきたA・Hというは」

「あ、おやっさん」

「ん、こいつまだプロトタイプじゃねぇか。でも、この出来」

整備をしていた若い衆の一人が寄ってきた。

「マーベリック社のアルスシリーズの新機種みたいですよ」

「やはりマーベリック社か、あそこは女性がA・Hを造っているからな、この繊細な出来

見ただけで分かちまうな」

「女性が?」

若い整備士は一瞬面食らった。

「そうだ、マーベリック社の社長さんって言うのが、物好きで、失業の女性を優先に採用

しているのさ。だから、あそこの会社は、九割が女性なのさ。だから、制作しているのも

女性ってことよ」

この時代、女性の職業難は大変な問題で、求人が6割程度しかなかったのである。

「そうだったんすか」

「まぁ、こんな御時世を生きて行く為だからな」

「女性が造ったA・Hですか」

「馬鹿にしちゃいけねえぞ、ほれ見ろ、このフレームの合わせを数ミリもズレちゃいない。

てめえらに真似出来るかどうか・・ガハッハハ・・」

「おやっさん、そりゃないすよ。」

タッタタタ・・・・

ミシュタルがハンガーを小走りやって来た。

「あれ、これかな?」

「おい、そこのお嬢ちゃん。ここは危ないから退いてな」

「あ、あの・・ヴァイくんのA・Hは・・・ど、どこですか」

「ヴァイ君?・・・・あ、ヴァイ中尉か」

「それなら、こいつだけど」

そう言うと、若い整備士は目の前の白いA・Hに指を差した。A・Hの肩には、四つ葉

のクローバーをかたどったマーキングに「ALUS」のロゴが入っていた。

「き、君は・・」

「ミシュタルって言います。ヴァイ・・ち、中尉のパートナーです」

ミシュタルは、慣れない言い方に戸惑った。

「ヴァイ中尉の?」

「はい。これから宜しくお願いします。それでは」

ミシュタルは、一礼すると振り向き、ハンガーを伝いA・Hの頭部へと向った。

「あ、そう言えば、さっきイフリータさんが入っていったぜ」

若者は言い忘れたかのように、ミシュタルに向い大きな声で叫んだ。

「はーい。整備よろしくお願いします」

ミシュタルは、振り向くとお礼のつもりか片手を振ってみせた。

「良い子じゃないか」

「そうですか」

「ほら、整備はじめるぞ」

若い整備士は自分の持ち場へと戻って行った。

「これでヴァイも自分のプリットを持ったって事か・・・」

ヴァイはミシュタルを待つ間、自分のプリットを持とうとはしなかったのである。必要な

時は軍から借りると言う方法を取っていた。その為、プリットの関係上毎回A・Hのセッ

トアップし直ししなければならなく整備の時間が人一倍掛かっていた。

A・Hの頭部にマザールーム呼ばれるプリットのコックピットがあり、一人の女性が閉じ

込められていた。

「エーン・・エーーン。何なのよ、これ。セットアップ途中から全然命令を受付けてくれ

ないよ〜。おまけに閉込められちゃった。まじゅたぁ〜助けて〜」

その時だった、光とともにコックピットの扉が開き、ミシュタルの姿が現れた。

「どうですか?イフリータさん」

「あ、ミシュ・・・た、助かった」

イフリータは嬉しさのあまり、ミシュタルに抱き着いてきた。ミシュタルは訳が分からず

、キョトンとしてしまっていた。

「後は私がやります。有り難うございました」

そう言うとミシュタルはマザーシートに座り設定を始めた。

「え、あ・・ミシュ・その・・・」

「イフリータさん、ハッチ閉めます。下がってください」

イフリータは言葉半ばにして、外に出た。

ミシュタルは瞳を閉じると全身の力を抜き、A・Hに身を委ねる。

「あなたが、マスターの新しいA・Hね。私は、ミシュタルよろしくね」

「・・・・」

「あなたの名前はなんて言うの?」

「・・・・・・」

「そう、『ノヴァ』って言うんだ。よろしくねノヴァ」

ノヴァの瞳が光を放つ。

「起動した・・・ど、どうして。私には全然反応してくれなかったのに」

イフリータはハンガーの上でノヴァを見つめ、今までに見た事の無いシステムに呆然と眺

めていた。

「アルスシステム・・・このA・Hって一体・・・」

 

 

ミシュタルと別れたエレアは、ヴァイ達のもとへ歩み出した。

「こんにちは、お二人さん。仲が宜しい様で羨ましいわ」

「こんにちは・・・・・・エレア・・」

そっけない挨拶をするレイリア。

「あ、エレアさん、あれ持って来てくれた?」

「もちろん。プロトタイプだけど、大丈夫よね」

「何とかやってみるさ」

「あっ、壊さないでよ」

「善処しまーす」

「ヴァイにそんな事期待する方が間違っているか」

エレアは、そう言いながら、頭を掻いた。

「そうそう、イフとミシュがセッティングやっているよ」

「ちゃんとやっているかなミシュのやつ・・・・初めてだからな・・」

「大丈夫よ、イフもいるから。ああ見えてもミシュは、あなたよりもしっかりしている

から」

ドックの扉が開き、ライーズが入ってきた。すると、こちらに気付いたのか、歩み寄っ

て来た。

「皆集まってどうした」

「あ、美男子野郎」

ヴァイのその言葉に、ライーズは完全無視。

「あ、エレアさん。こんにちは。今日はどうしたんですか?」

「ちょっとね、ヴァイにA・H持ってきたのよ」

「A・Hですか・・」

ライーズのA・H『エヴァ』もアルスシリーズので、エレアには色々とお世話になって

いた。A・Hとプリットには相性が有り、事実、ディアンシェ博士のプリットとアルス

シリーズの相性は良く、通常以上の能力を発揮していた。

「あ、レイも居たのか。A・Hのセッティングの方は?」

「宇宙用のBタイプにセット、全て終わっていますマスター」

「OK」

二人とも、あまり話す方では無いので、会話は、最小限度の内容で終わる。ヴァイは、

レイリアの肩を揉みながら

「さすが、レイちゃんだね」

「いえ、そんな事ないです」

「おい、ヴァイ。その手を・・・」

キャアアアアア・・・・

急にドックの下の方から女性の悲鳴が響き、その後からマスターらしき男の怒鳴り声が

、ドック内に駆け巡った。

「この役立たずが、売っちまうぞ」

「ご、ごめんなさい。それだけは・・・」

二人を取り囲むように、整備の人達が集まり出した。

「おいおい、あいつ、またかよ」

「こっちまで、気分悪くなっちまうぜ」

「てめえら、見世物じゃねぇぞ!」

「また、あいつか」

「ほら、何集まっている。早く持ち場に戻れ!もうすぐ出撃だぞ!!」

上司の一声が掛かると集まっていた人達は、各持ち場へと散って行った。

「お前は、俺の言う通りにしていればいいんだよ」

「わ、私、マスターの為にしたのに・・」

プリットは冷たい床に倒れ込み、唇から血が滴り落ち、顔の至る所が殴られ腫れ上がっ

ている。

「人形のくせして・・・・」

「私、に、人形なんかじゃない・・・」

「うるせぇー。口答えすんじゃねぇ」

マスターがプリットの腹に蹴りを入れる。

「うっ、ゴホゴホ・・。マ、マスター。や、止めてください」

「艦護衛部隊の奴だな」

「野郎、プリットをなんだと思ってやがる。この自称『愛の伝道師』の俺様が鉄柱を食ら

わしてや・・・」

ちょうど上の階にいたヴァイ達が出て行こうとした時だった。

「第十三隊出撃準備、五分後に作戦を開始します」

「ヴァイ命拾いしたな」

ライーズがボソッと呟く。

「なに、うるせいなキザ野郎!」

「ほらほら、お呼びがかかてるよ。あとは私が何とかするから、さっさと行きな」

追い出されるようにエレアから、そう言われるとヴァイ達はそれぞれのA・Hの置かれた

ハンガーへと向った。

「これよりA・Hを射出します」

「ハンガー内の乗組員の方は直ちに退去してください」

「メインハッチオープン。カタパルト準備」

ヴァイがハンガーに入ると、もう全ての準備が出来ており、素早くコックピットへと潜り

込んだ。

「マスター準備出来ています」

「エンジン始動、言語は標準に、全モニター表示、バランサーの調整ノーマル全てのイ

ンターフェースを接続。制御はプリットに操作はマスターに設定」

ヴァイは右目にスコープを付けると、手元のパネルを慣れた手つきで操作し、360度

に張られたパネルに外の風景が映し出される。画面の一部のウインドウが開かれミシュ

タルが映し出された。ミシュタルの瞳はブルーに光り、表情も先ほどまでの雰囲気はま

るで違う。

A・Hとプリットのシンクロすると、瞳孔が無くなり光を放つ、そして人間らしい表情

も無くなる。そうA・Hの一部になった感じである

「ミシュタル大丈夫か?」

「ハイ、マスターイケマス」

「状況を報告してくれ」

「宇宙用Cタイプ ニ設定シテアリマス、オプション ハイメガランチャーヲ装備

、全機能コンディショングリーン 六十分ノ可動可能デス」

「OK」

「マスター コレヲ見テ下サイ」

ウインドウが開き、ドックのエレアが映し出された。暴力を振るっていたナイツはエレ

アに押え込まれ、地に伏せていた。

「少しは彼女を大切にしなさい。彼女だって、君の事を思って設定しているんだから」

「は、はい」

「大丈夫?しっかりして」

イフリータがうずくまったプリットを抱え起こす。

「マ、マスターを責めないでください。マスターの命令に従わなかった私も悪いんです

から」

ノヴァに気付いたエレアは、軽く手を振った

「やるなエレアさん」

ピピピ・・・

急に音と共にパネルにウインドウが開き、サングラスタイプのスコープを着けたロイの

顔が映し出された。

「おい、ヴァイ準備は」

「はい、行けます」

「ライーズ、シレンツ、マロニは」

「・・・・」

「よし、ラブキューピット隊全機出撃!RISCに熱いキッスを喰らわしてやれ!!」

「ミシュタル、初めてのA・Hだ無理するなよ」

ヴァイはミシュタルの事が心配なのか気を使い声をかけた。

「ハイ、マスター」

五機のA・Hはカタパルトから、次々と漆黒の宇宙へと出て行った。