突入

 

 

 「第十三部隊、出撃しました。」

「メインハッチを閉じてください」

次の瞬間、艦内に警報が鳴り響く。オペレータがパネルを操作し、中央に置かれたメイン

パネルにエディンの拡大映像を表示させた。

「艦長エディンに補足されました。」

「予定通りですね」

「エディンがこちらに接近中。あと、数分で射程内に入ります」

艦長の側にいた中年の副官が命令を出す。

「第一種戦闘配置。エディンをこちらに引きつけるぞ」

「エディンがミサイルを発射しました」

「ダミーを十字の方向に射出」

轟音と共にウインダムに近づいて来たミサイルを撃破する。

「数弾が突破!直撃きます」

ウインダムに直撃し船体に振動が走る。

「5番ブロックに直撃しました」

「直ちに5番ブロックの被害を確認。人命救助を優先させろ」

「エディンより追撃きます」

「ポイントシールドを展開しつつ。パルスレーザーを準備、反撃するぞ」

「了解!」

 

 

 その頃、第十三部隊は宙域を大きく迂回し、突入の機を伺っていた。

「マスター、ウインダム 戦闘二突入シマシタ」

ロイのパートナーのミリスが報告をする。

ミリスはディアンシェの三番目のプリットで、容姿としてはパープルのショートヘアに

カチュウシャをして童顔である。とても、しっかり者でロイの秘書兼、身の回りの世話ま

でやっている。詳しい事は第2章で語られる事になる。

「OK」

「聞いての通りだ。予定通り全機突入開始する。味方の弾に当たるなよ」

「了解!」

ヴァイにとって、止まっている時間は不安で仕方ない。どちらかというと動いている方が

気が紛れて良かった。

「行くぞ、ミシュタル・・」

ヴァイは操縦のレバーを操作するが、一向に反応しない。

「・・・・」

「ミ、ミシュタル、ど、どうした」

微かにミシュタルの耳にヴァイの声が届いていた。

「助ケテ、マ、マスター・・誰カガ入ッテクルノ、私ノ中二」

ミシュタルの意識とは無関係に、幼い頃の場面から今までに見た事の無い悲惨な映像まで

が、次々脳裏を過ぎった。

ヴァイは急いでウインドウを開く、そこには、額に汗を浮かべ苦しむミシュタルの姿が

あった。

「大丈夫か?」

「ハ、ハイ」

「無理するなよ」

「ス、少シダケ時間ヲ 頂ケマスカ」

「分かった」

「ヘイ、どうしたヴァイ。置いて行くぞ」

「隊長、ミシュタルが不安定みたいだ、先に行ってくれ」

「了解した」

「お前は、そこで見物してな、後はわいらだけで方を付けてたる」

「へいへい」

「それにしても、ミシュタルどうしたんだろう。もしかしてあの日」

「バカ・・」

たまたまヴァイのコックピットライブを受信していたレイリアが呟く。

女性にとっては情緒不安定になるあの日だが、生殖機能が退化したプリットの女性も例

外ではない。この日だけは、シンクロ率の低下、A・Hの鈍さなどの問題が起こり易い。

しかし、ミシュタルの苦しみはまた別のもので、RISCが絡んでいたのは間違い無かっ

た。

数分後、ミシュタルは何とか落ち着きを取り戻す。

ヴァイと別れた第十三部隊は、上手くエディンのメインエンジンの下方に張り付く事に成

功したが、ウインダムからのレーザーが飛び交い危険な事になっていた。

「全機、突入可能なハッチを探せ」

「了解」

「早くしないと見方の攻撃でお陀仏だぜ」

「レイリア、突入出来そうな所がないかスキャンしてくれ」

「イエス、マスター」

「おあっ、あぶねえ、あの艦長はん攻撃し過ぎやで、加減ってのを知らんのか」

「グズグズ言っている暇があったら、早く見つけろ」

「マスター、後部25番ハッチ ヨリ侵入可能デス」

「分かった。レイリア全機にデータを転送してくれ」

「YES MASTER」

「よくやったライーズ。よし、25番ハッチより突入するぞ」

4機のA・Hが25番ハッチの前に集まる。シレンツがハッチの横にあるパネルをA・H

越しに操作する。

「隊長、開けへんで」

「仕方ない、突き破るしかないか。マロニ一発頼むぜ」

「あいよ」

マロニのA・Hは重装備の火力型で、第十三部隊イチの破壊力を持っている。ヴァイの

ハイメガランチャーが無い今、これに頼るしかなかった。

数発のミサイルによって、ハッチが破壊され入口が開く。そして、隊長機を先頭にエディ

ン内部へ突入していった。

「レイリア、今の爆音でRISCに感づかれたに違いない、十分警戒してくれ、何が出

てくるか分からないからな」

「YES MASTER」

 

 

 ドド・・ドドドド・・・・

「第十三部隊より連絡、艦内への突入に成功したそうです」

「こちらも踏ん張るぞ、もっと、RISCをこちらに集中させるんだ」

「エディンの攻撃が散漫になっています」

「こちらの攻撃を一点に集中させろ。一角を突き崩せ!」

 

 

第十三部隊は通路をエディンの中枢であるマザーに向けて進んでいた。途中予想さた艦

内自動防御システムによる妨害がなく、半ば不安も過ぎっていた。

「静か過ぎる」

ロイが呟く、長年の戦感からくるものであった。

「マスター、通路ノ先二 A・Hノ反応ガアリマス」

「なに!」

「全機散開」

「A・Hヲ補足シマシタ。モニター ニ表示シマス」

「なんや、あれは、あ、足があらへん。それに、あの大きな鎌はなんや」

「まるで死神・・」

「手のひらに女性が立っているぞ」

「アノ、女性ハ、・・リ・ア・・」

レイリアはライブ会場での出来事が思い出された。

「レイリア、あのA・Hの データをくれ」

A・Hを見た瞬間、スコープ越しにロイの顔が歪む。

「マスター、アノ機体ハ」

「ああ、多少形は変わっているが間違いない、ジ・キルだ」

「姉サン・・・」

ミリスの脳裏に悪夢が蘇り、震えが全身を襲った。

「くそ、今頃になって、また出てきやがって十三年前の亡霊が・・・」

ロイは、手元のパネルに拳を叩き付けた。

ジ・キルは大きな鎌を持ち、黒い機体の回りにはフィネイルを展開させていた。足は無

く、変わりにブースターが取り付けられ機動力を上げていた。機体からは異様なまでの不

気味さを漂わし、悪魔の使いのように感じられた。

「マスター、アリマセン。NO DATAデス」

「一番近い似機体は・・」

「ソレナラ、十三年前 二滅ンダ アフェトラリア公国ノ ナイトメア騎士団 次期主力機

体ダッタ ジ・キル ガ アリマス」

「滅国のアフェトラリア公国の機体だと・・・馬鹿な」

「マ、マスター。敵ノA・Hガ各機 ハッキング ウイルス バラマイテイマス」

「くそ、不意をつかれたか」

「ど、どないしたんや、コントロールが効きへん」

「レイリア!?」

「自動プロテクト機能ガ展開サレマシタ。レベルA」

「ふーっ、無事だったか」

「ちっ、あかん。RISCにレイプされよった」

「ロイ隊長、こちらマロニ。機体が沈黙しました」

二体のプリットは輝いていた瞳が消え、意識を失った。

「ミリス、状況は?」

「何トカ、動ケマスガ システム ノ一部ヲヤラレマシタ。修復ニ多少ノ時間ガ掛カリマ

ス」

「早くもA・H三機を戦闘不能したってわけか」

「・・・コレカラ、ドウシマス?」

「敵の機体がジ・キルだけに、俺たちじゃ役不足か・・・ここはライーズに踏ん張っても

らうしかないか」

「デスガ・・」

「このRX−7(インダストリア社)の機体では、お前の真の力は出せないからな。アル

スシリーズでもあれば別だが・・・取り合えず、システムの回復、そして、あの二機のワ

クチンを製作してくれ簡易でかまわん」

「YES MASTER」

「ライーズ見ての通りだ。俺はこの二機を何とかするから、すまないが一人で踏ん張って

くれ、俺もシステムの修復が済み次第援護する」

「了解」

口では返事をしたが、ライーズは肌で相手の強さを感じ取っていた。心には不安と言う

一点の曇りが生じていた。

「・・・自分の力を信じろ」

自分を戒めるように呟いた。

「マスター」

「ああ・・」

ジ・キルの手のひらのリアは、いつの間にか消えていた。

 

 

 「艦長。エディンの攻撃が沈黙しました。」

オペレータから意外な報告がされた。先刻まで激しい攻撃をしていたエディンが、急に

戦闘を止め停戦したのだった。

「艦長どうしますか。罠という事も・・・」

「シールド全開。エンジン最大出力。全ミサイルいつでも打てるように」

「艦長、何をする気ですか」

「一気にエディンの懐に突っ込むのよ」

「で、ですが余りにも危険では」

「大丈夫。私に任せなさい!!」

なんといい加減ないい方と思われるが、この戦艦の中では、これ以上説得のある言葉は

なかった。

副官は眼鏡の位置を直しながら口を開く。

「そうだな、この期を逃すと救出が難しくなるな」

ブリッジの皆がアイコンタクトとり頷く。それを見て艦長が立ち上がり、腕を振りかざ

した。

「ウインダム突入!!」

 

 

 ライーズは、RISCのジ・キルを相手に苦戦を強いられていた。

「マスター、後ロニ回リコマレマス」

「くそっ、こんな狭い通路じゃ的になってくれと言っているようなものだ」

「マスター、少シ先二開ケタ空間ガアリマス」

「レイリア、そこに出てくれ」

「YES MASTER」

「なんとか、そこまでなんとかもってくれよ」

「よし」

ライーズは、ロックオンの音と共にビームライフルを発射させるが、ことごとくフィネ

イルに阻まれてしまう。

「なに」

フィネイルは遠隔操作可能とした攻撃ウェポンで、プリットがA・Hの同時操作は不可

能だった。だがRISCは超高速処理のおかけで不可能を可能にしていた。おまけに防御

機能も追加されておりレーザー系の攻撃をピンポイントで防ぐ事が出来た。

「あのA・Hはフィネルと機体を同時に操作してきやがる。それに、パワーもスピード

も桁違い」

「間モナク通路ヲ出マス」

「この機体だって、スピードではどのA・Hよりも上のはずなのに、それだけの力があ

るというのかRISCには・・・」

「マスター、直撃キマス」

狭い通路がおわり、広々とした空間が目の前に現れた時、ライーズの耳にレイリアの声

が飛び込んできた。とっさにレバーを引き、ベイル(盾)で防ぐが、火力の大きさに、

ベイルが砕け散る。

「うわっ」

コックピットに振動がはしり、ライーズの体が左右に揺れる。

「うっ」

「レイリア大丈夫か」

「マスター今ノ衝撃デ、左腕ノ ジョイント ガ破損シマシタ」

「左腕のコントロールをハイトプルに移行する」

ハイトプルとは、プリットが出来る以前のCPUで、現在ではセカンドCPUとして使

われていた。プリットはA・Hとシンクロしている為、破損した時のフィードバックの

苦痛を和らげる為、部分的に割り当てて使われていた。その時の機体反応などのダウン

を余儀なくされた。

「マスター、左腕ノ反応速度ガ30%ダウン シテシマイマス」

「いいんだ」

「マスター、 ハイトプル ヲ使ワナクテモ、マダ ヤレマス」

「破損した左腕など、いつでもくれてやるさ」

「マスター・・・」

場所が変わっても、戦局の不利は揺るぎ無いものだった。ライーズが幾度となく撃つが

フィネイルで防がれ、間合いを詰めようとすると上手く交わされ、キズ一つ付ける事は

出来なかった。そして時間が経つに連れ、ライーズとレイリアの疲労がたまり、相手の

攻撃をかわすので精一杯な状態にあった。

そんな状態のさなか、レイリアの目にジ・キルの額のクリスタルに映る一人の人影が映

った。

「ア、あれは」

レイリアは、一瞬、影に気を取られてしまった。

ジ・キルは、その隙をつき、大きな鎌を振りかぶり突っ込んできた。

「どうしたレイリア。コントロールが効かないぞ」

「ト、トウ・・・サマ・・」

「なに、こんな時に」

「レイ。機体ヲ45°傾ケテ」

ゴゴゴ・・・・

「アッ、」

エヴァとジ・キルの間に光の柱が立つ。

「マスター。何トカ間二合イマシタ」

別通路より突入して来たヴァイがエヴァ危機を見て、とっさの判断でハイメガランチャ

ーを二機の間に撃ち込んだのだった。

「おい、ライーズ無事か?」

「ヴァイか!」

パネルのウインドウが開き、お互いの顔が表示される。

「なんだ、その様は」

「うるさい」

「ところで隊長達は、どうした」

「隊長たちは、RISCのばら撒いたウイルスで身動き取れないまま、向こうの通路に

いる」

ヴァイは通路をモニターで確認する。

「ライーズ、お前は隊長達の機体を回収し帰逃しろ」

「何言っている、奴の強さは半端じゃない。お前の機体だけでは・・俺も・・」

ヴァイはエヴァの様子を見て全てを悟った。ライーズのほどの腕の持ち主が、ここまで

ボロボロされる事自体、只事では無いと予想がついた。

「分かっている・・・そう意地を張るんじゃない。そんなボロボロの機体で何が出来る。

それに、レイリアの事も考えろ」

「マスター、私・・マダ・ヤレマス」

レイリア苦しさを堪えながら、答えた。

ヴァイの言う事は正論だった。事実、ライーズは、いつの間にか冷静さ失っていた自分

に気付きヴァイの忠告に従った。

「わ、分かった。悔しいがお前の言う通りのようだ」

「マ・・マスター・・・」

「この借りは、いつか返す。だから、こんな所で死ぬんじゃねえぞ」

「ああ。俺は、あいにく死ぬ時は、『女の胸の中』って決めているんでね」

「勝手に言ってろ!」

「ミシュタル、アナタナラ キット・・・自分ヲ信ジルノヨ」

エヴァはジ・キルをノヴァに任せて、隊長達のいる通路へ引き返した。

「さあ、いくぜ」

「マスター、ジ・キル ガ動キ出シマス」

「ミシュタル、ハイメガランチャーを切り離してくれ」

ヴァイはフィネイルを相手に、遠距離では勝ち目の無い事を感じ、いちかばちかの接近

戦に持ち込む為、ノヴァはセイバー(レーザーソード)を抜く。そして、RISCのジ

キルへ向い接近した。

「アクセレータフィールドを展開」

アクセレータフィールドは機体の回りに磁気の膜を作り出し、レザー系の攻撃を無効に

できた。フィネイルのレザー攻撃には有効とのヴァイの考えだった。

「ミシュタル、フィネイルを封じるぞ」

しかし、ジ・キルも、それに合わせるように間合いを取る。

「くそ、近づけねえ」

「マスター、上」

「なに!」

ノヴァの頭上をフィネイルがとり、ビーム攻撃をしてきた。瞬時に左腕のベイルで防ぐ。

「間合いを取ると空かさず、フィネイルで攻撃か・・・イヤラシイな」

「敵本体、正面来マス」

「早いっ!」

ヴァイは、瞬時にセイバーでさばく。

「なるほど、エヴァがボロボロにされる訳だぜ」

何度か、攻撃をするが致命傷どころか、かする事も出来ないでいた。いつの間にか、防

ぐ事で精一杯の状態になっていた。

「くそ、防戦一方だな、これじゃ消耗戦になってしまう。生身の分だけこちらが不利か」

「マスター、一ツ方法ガアリマス」

「なんだミシュタル」

「RISCニ ハッキング ヲ試ミ、内部カラ攻撃シマス」

「駄目だ、危険過ぎる」

「デモ、コノママデハ、・・・マスターが」

「別に俺に構う事はない」

「マスター・・ゴメン。」

ミシュタルは、今のままでは自分達が殺られてしまう事を感じ取っていた。それに、リ

アの言葉が気にかかっていたのも事実であった。

「ばか野郎、勝手しやがって」

ヴァイはパネルを操作し、全てのコントロールをハイトプルに移行させる。これで、ノ

ヴァの動きが、70%ダウンしてしまった。

「これで、フィネイルに攻撃されたら避け切れない」

だか、予想に反し、敵のA・Hも沈黙を維持している。

ヴァイは、こんな機体状態で、こちらからうかつに攻めれば命取りなると思い、一定の

間合いを取り相手の出方を伺った。

一方ミシュタルは、マスターの命令を無視しハッキングを試みるが、リアの予測内の行

動であり逆に進入されてしまう。

マトリックスを通し、ミシュタルの目の前にリアが現れた。リアは、透き通った指でミシ

ュタルの頬をなでる。恐怖のあまり、ミシュタルは身動き出来ずにいた。

「アラアラ、コウ都合ヨク罠ニ掛カッテクレルトハネ」

「こ、来ないで、ち、近づかないで頭が」

ミシュタルは自分の体に触れていたリアの腕を振り払うが、実体を持たないリアには無

意味だった。

「何故、私達が戦うの?」

「マダ分カラナイノ?マダ気付カナイ?ジャ、コレヲ見レバ ドウカシラ」

リアは、顔に付けていた。不気味なマスクをゆっくりと外した。

「あっ、わ、私」

「ソウ、私ハ貴方。貴方ハ私。私ノ ダミーハ 貴方ノ意志ガ サンプル ニナッテイ

ルノ」

「でも、私の意志だったら、私を分かっているはず。どうしてこんな事を」

「忘レタノ?アナタガ幼イ頃受ケタ心ノ傷ヲ・・・」

リアは周りの空間にミシュタルの幼い頃の映像を流し始めた。

 

「あっ、ミシュタルちゃんの瞳が青く光っている」

「お前、プリットだろ」

「違うもん、人間だもん」

「ミシュタルちゃんの住んでいる屋敷で、プリットを創っているんでしょ」

「プリットは、人間以下なんだぜ。とうちゃんが言っていた」

「プリットじゃないよ、人形って言うんだぜ」

「やーいっ人形、人形」

「人形じゃないもん」

「ほら、人形だったら、人間の言う事聞けよ」

 

「でも、あれは・・・」

「イイエ、アナタハ マダ心ノ何処カデ思ッテイル」

ミシュタルは胸に手を当て、思い返すかのような仕草を見せる。

「例え思っていたとしても、それは過去の話。今の私は違う。ヴァイ君との出会いで全

てが変わった・・・人間の全てが、そうじゃない。分かり合える人達もいると言う事を」

 

「嫌てーっ」

「やめろよ。嫌がっているじゃないか」

「ヴァイ君・・・」

「邪魔するなよ。プリットごっこしているんだから」

「プリットごっこ・・・単なる虐めじゃないか」

「一緒に遊びたいんだろ」

「駄目だよ、ミシュタルちゃん。言う事聞いちゃ」

「でも・・・」

「さあ、行こう」

 

ミシュタルはリアに向い、うったい掛ける。

「貴方も私だったら分って。こんな、馬鹿な真似はやめて」

「ソウ思ッテイラレルノハ、アナタガ ヴァイト一緒ニイルカラ、人間ハ アナタ達ノ

事ヲ道具トシテシカ見テイナイ、ダカラ、見セテヤルノ プリットガ ドレダケ優レテ

イルカヲ」

「違う、間違っている」

「ソレガ貴方ノ意志」

「そんなの私の意志じゃない!」

「私ハ、全テノ人間ニ復讐ヲスル。マズ手始メニ ミシュタル ノ意志ヲ変エテ上ゲル。

アナタノ大切ナ物ヲ全テ奪ッテ上ゲル。コレヲ見テ、コレデモ戦エルノカシラ」

リアは、空間にA・Hの額に収められた、ディアンシェの姿を映し出した。

「父様・・・」

「ドウスルノカシラ、戦エバ父様ガ・・・黙ッテイレバ ヴァイガ・・ドチラヲ選ブノ

カシラ。アナタノ意志ヲ貫クノナラ、二人ヲ助ケテミセテヨ」

そう言い残すと、リアは姿を消した。

「・・・ミシュ・タル・・・ミシュタル、返事をしてくれ」

ヴァイの声で我を取り戻す。その瞬間、プリットにシステムが移行される。

「マスター、スミマセン」

「おっ、無事だったか。心配掛けやかがって」

「マスター大変ナ事ガ ジ・キル ノ額ニ・・・ト、父様ガ」

「なに!ディアンシェが!」

「マスター来マス」

ミシュタルとの話のさなかジ・キルが特攻を掛けてきた、ヴァイの反応が遅れ、ノヴァ

の右腕を切り落とされてしまった。

ミシュタルは左手で右腕を力強く握り締め、悲鳴が機体内に響く。ミシュタルの頭にノ

ヴァのフィードバックされた感覚が入ってくる。

ヴァイはミシュタルの苦痛を取り除く為、素早く右腕の感覚をプリットから切り離す。

「大丈夫か?」

「はあはあ・・はあ・・・は、はい」

「アラアラ、片腕無クナチャッテ」

「くそ!セイバーが・・・」

「ミシュタル、ソンナ格好デ私ニ勝テルノカシラ、早ク全テヲ変エル 力 ミセテヨ」

ヴァイはノヴァの体勢をたて直し、パネルで武器の確認をする。

「このままやられてしまうのか・・・いや、まだだミシュタル、バーニアの主力を臨界

点まで上げてくれ」

「マスター、何ヲ」

「ちょっと、一泡吹かせてやるのさ」

そう言うと、ニッコリと笑う。ミシュタルも、マスターを信じ言う通りにする。

「いくぜーっ、RISCくくくくーっ」

馬鹿正直に正面から突っ込んでくるノヴァに一瞬戸惑いが生じ、リアの反応が遅れ、タ

ックルをもろにくらい壁に叩き付けれる。

「ウッ・・・」

「よしゃあぁぁ!ビンゴ!!」

「単細胞ガ」

ジ・キルは、何事も無かったかのように、メリ込んだ壁から勢いよくはい出る。

「ヨクモヤッテクレタネ」

「あれだけのタックルを食らって、ダメージがないのか?」

「モウ一本ノ腕モ邪魔ダネェ。今、スッキリサセテヤルヨ」

ジ・キルは、鎌を振りかぶり、猛スピードで突進してきた。ノヴァの時の比ではなかった。

ノヴァは、バーニアを使い後退するが、無意味な事に変わりは無かった。

「マスターっ」

「もう駄目か・・・」

その時、横からノヴァとジ・キルの間に、一体のA・Hが割って入ってきた。

「あれは、ネヴァ」

ネヴァは両腕両肩のベイルを使い、ジ・キルの鎌を受け止めて踏ん張っていた。

ネヴァはエレアの機体でアルスシリーズの中でも、重装備を有し守備に適した機体だっ

た。肩の可動ベイルを転回すれば、戦艦の主砲クラスでも耐えることができた。

「エレアさん」

「ヴァイ、ミシュ生きてる?」

パネルのウィンドウが開きエレアの顔を映し出した。

「エ、エレアさん、すまない。助かったぜ」

「しかし、なんてパワーなの・・・これがRISCの力」

「マスター、モウ駄目、コレ以上モタナイ」

「イフ、もう少し・・・」

「きゃああぁぁぁぁ」

振り下ろされた鎌に、ネヴァは吹き飛ばされ、隔壁にブチ当たった。

「エレアさん、エレアさーーん」

「アラ、セッカク助ケニ来タノニ残念ネ」

「ジ・キル・・」

「気ガ変ワッタワ、ミシュタル。フィネイル ヲ使ッテ ジワジワト・・・」

ジ・キルがノヴァの周囲にフィネイルを移動させる。武器を持たないノヴァに抵抗する

すべは無く交わすのも難しい状態だった。

「ミシュタル、自分ノ 力 ノ無サヲ 思イ知ルガイイワ」

「マスター機器損傷ニヨリ、アクセレータフィールドが60%ノ密度ニ低下」

「無いよりはマシだ」

ヴァイはノヴァを操りフィネイルの攻撃を交わす。多少のダメージはアクセレータフィ

ールドで何とか防げると思われたが、レーザーの出力の大きさに部分的に貫通してくる

所が出ていた。時間が立つに連れ、フィネイルでノヴァを囲みじわじわと装甲を削ぎと

っていくが分かった。そして、全てのダメージが感覚としてミシュタルを啄んでいく。

「このままでは、ミシュタルが・・・」

ウインドウが開き機体の破損個所を示している。重ねてシンクロ率が著しく低下を示す

メッセージが表示される。

ピピピ・・・・

音と共にウインドウが開きDANGERの文字が光る。

「畜生、これまでか」

ヴァイのいるコックピットは回りで爆発が起き360度パネルが割れ、ヴァイの腕に

破片が突き刺さり、爆風の衝撃で右目に付けていたスコープが割れる。

「うわわわわ・・・・」

「ドウシマシタ、マスター」

ミシュタルのもとには映像が届かず、声だけの通信となっていた。

「ミシュタル、すまない・・もう・駄目だ。お前だけ・・でも脱出して・・・くれ」

ヴァイは極度の出血により、目が霞みはじめていた。

「マスター、アキラメナイデ」

「いまから・・プリットから全ての・システムを・・破棄させ、マザー・・・を離脱させる。

「駄目デス。ソンナ事ヲシタラ マスターガ・・」

「大丈夫さ、俺は・・悪運だけは・強いんだ・・・」

ヴァイは意識がもうろうとするなか、操縦レバーの下についた赤いレバーを引く。

「ゴメン・・・」

ミシュタルはヴァイの命令をシステム内で強制破棄させた。

「馬鹿・・野郎・・また勝・手し・・やがって・・」

そう言うと、ヴァイはシートに倒れて気を失った。

「ホラホラ グズグズシテイルト、アナタノ大切ナ人達ガ死ンジャウワヨ」

ノヴァの装甲はボロボロとなり、所々第二装甲が見えていた。頭部に関しては、第三装

甲までが破壊されており、マザーの外装が露出していた

「マスターヲ コノママニ シテ ナンテ行ケナイ」

「全部、アナタノセイヨ。ソウ全テ」

「ワ、私ガ・・タ、助ケ・・・ナイト」

「マダ、ソンナ事言ッテイルノ?何モカモ忘レテ、私ト一緒ニナリマショウ」

「イヤ、私ハ私。アナタトナンカ」

「現状ヲ見テミナサイ、誰一人トシテ守レナイクセニ」

「マ、マスターハ、必ズ守リマス。コノ命ニ代エテモ」

「ハハハ・・オ笑イ種ダワ」

ミシュタルはコンサートの時に聴いた声を思い出していた“あなたは強い娘です”

そう自分を信じるのよ。そうすれば・・・瞳を閉じ、胸の前で手を組むとノヴァに意識を

集中させた。

「ノヴァ。アナタノ 力 ヲ貸シテ、愛スル人ノ為ニ」

ノヴァの瞳が光を放ち機体が蒼白い光に包まれる。そして、ミシュタルの瞳の色がブル

ーからレッドへと変色する。

「リミッター解除」

コックピットのパネルに表示された、シンクロ率を示すゲージは90%を超えていた。

プリットのコックピットのパネルに『SYSTEM ALUS OK』とメッセージが表示

される。

「こ、これは・・・設定変更、制御及び操縦をプリットに設定。システムをアルスシステ

ムに移行する」

全てのシステムをミシュタルが掌握し、ミシュタル一人の意志でノヴァが動いていた。

「う、動いている。こ、これなら・・」

ノヴァとミシュタルが一体化し、正面から突っ込む。そのスピードは、RISCの能力

を遥かに超えていた。飛び交うフィネイルのビームを軽々しく交わし、ジ・キルの間合

いに飛び込んだ。

「ゆ、ゆるさない。誰も失いたくない」

ミシュタルは無事な左手で、ジ・キルの顔をわしずかみする。ジ・キルは腕を掴み剥が

そうとするが剥がれず、鎌で切り落とそうとした時、ミシュタルは渾身の力で首から顔

を引き千切った。

ネヴァのコックピットの中で、エレアがその光景を直視していた。

「こ、これが、アルスシステムの姿だというの」

「ミシュ ナノ・・」

顔を引き千切られたジ・キル本体は、音も無く暗闇に落ちていった

ノヴァはジ・キルの頭部を持ったまま、ゆっくりと降り、床にひざまずき静かに停止した。