脱出

 

 

ノヴァはボロボロの機体を跪かせ自己冷却を行っている。そのせいで、辺りには水蒸気

となり煙が立ち込めている。

アルスシステムは機体の限界能力を発揮する為、各パーツに掛かる負担が大きく機能停止

と共に機体の冷却機能が作動する。

水蒸気により艦内に空気があることを確認したエレアは、コックピットを出てジ・キル

の頭部のクリスタルを携帯用のサーベルで破壊し、ディアンシェを救出した。

イフリータもノヴァのコックピットを開きヴァイの生存を確認する。

ヴァイの怪我は、出血は酷かったが急所は外れており、命に関わる程ではなかった。

「大丈夫ですか?」

「う、ううううっ・・・・イフ・・リータさん?」

「ちょっと荒療治になってしまいますが、我慢してくださいねっ」

イフリータがヴァイの腕に刺さっていた破片を引き抜いた瞬間、痛さでヴァイの意識がハ

ッキリと戻る。

「う、うわっ・・・」

「すぐ止血しますから」

「ああ、腕の怪我で意識失っていたのか・・・」

「これうちの新商品なんですよっ、うふっ」

「こ、こんな状況下で・・宣伝っすか・・・」

イフリータは笑顔で返事を返すと、手際よく新製品の止血テープを患部に巻き付け、応急

処置をほどこした。

「マスター、ヴァイさんは大丈夫でーすっ!」

コックピットから身を乗り出し、手を振りエレアに合図した。

「後はミシュね、ちょっと待っててくださいね」

イフリータはコックピットを出ると、ボロボロとなった頭部へ上がっていった。

「うわーっ、これは酷いっ第一装甲が丸見えじゃない」

イフリータは非常用の開扉コードを入力し、マザーへのハッチを開けた。

「ミシュっ怪我無い?大丈夫・・・・あれ?」

しかし、そこには無人のシートが置かれ、ミシュタルの姿はなかった。

そのころ、エレアはディアンシェの上半身を膝の上に持たれさせ意識が戻るのを待ってい

た。外傷は無く気を失っているだけだった。

「ん、んんっ・・・・エ・・レ・アか・・・」

「ディアンシェ、大丈夫かっ!」

「まぁ、うっ・・・この通り・・意識はある。・・・こ、ここは?・・・・」

「エディンの中よ」

「・・・すまない・・・最悪のシナリオになってしまったようだな・・・」

「でも、A・Hはミシュが何とかしてくれたわ、後はRISCのコアを破壊するだけよ」

「そうか、ミシュタルには、辛い思いをさせてしまったようだな」

「そうね。でも、あの子は強い子よ」

「だ、だからさ、少しのキズにもろく・・崩れやすい・・・もしもリアに会っていたら・・・」

「リア・・?」

「過去・・RISCの機動実験には多大リスクが生じた。その為・・ミシュタルのような

力を持ち・・・RISCと対等に渡り合える者が必要だった。そう最悪の事態に対処でき

る力が必要だった。ノヴァのアルスシステムもその為のひとつ・・・」

「でも、それは来るべき未来の為じゃない」

「私もそう思っていた・・・。しかし、他者からみれば・・自分の欲求だけを叶えたい、

エゴイストかもしれない・・・・」

その時、背後から近づく足音があった。

「ミ、ミシュ」

「と、父様・・こ、これは、・・・・どういう事なんですか」

ミシュタルは顔をうつむかせ、何かに耐えているように立っていた。

「ご、ごめんなさい。こうなる事を予測した上で、あなたを巻き込んでしまって」

ディアンシェをかばう様にエレアが割って入ってきた。

「全て仕組まれていた事なの?・・・わ、私、何もかもが判らなくなってきた。一体なん

なのよ・・・」

「・・・・」

「答えてよ、父様!」

「・・・ただ今言える事は、RISCのコアを破壊しなければ、この戦いは終わらないと

言う事だ・・・」

「お願いミシュ、RISCを破壊して、あなたしかいないの」

「私自身と戦えっていうの!!」

「えっ?」

エレアは、まったく知らない様子で、驚いた表情を見せた。

「ディアンシェ、あなたまさか・・・」

「・・・・」

「RISCの中の意思は私のものなんでしょう。オリジナルである私がコピーであるR

ISCに対応できる唯一の手段、だから、私にしか倒せないのよ・・・・・。」

「リアに・・・逢ったのか?」

ミシュタルは無言のまま頷く。

「あれには近づきたくない。私の全てを知っていた。そして、私の嫌な心も・・あの感じ・・・」

ミシュタルは震えた体に腕を巻きつけ膝間づいた

「ミシュ、もういいんだ、後は俺がやる」

ヴァイがイフリータの肩を借り、A・Hを降りやって来た。腕の怪我は処置されていたが、

軍服に血の滲んだ跡が痛々さを感じさせていた。

「ヴァイ君・・・」

「す、すまないミシュ。俺が未熟なせいで辛い思いばかりさせて」

「そんな事ない」

「俺はミュタルと一緒になると同時に、ある運命をも受け入れたんだ。だから運命と戦う。

こんな所で止まってなんかいられない、さっさと片付けて帰ろうぜ」

ヴァイ君は、こうなる事を承知で、私と一緒になる事を選んでくれたの・・・知らなかっ

た・・・なのに私は・・・。

「ミシュは皆と脱出してくれ」

「えっ?!」

「ジ・キルを破壊したんだ修復には多少なりの時間を要するはず、RISCの破壊だけな

ら俺一人で十分だ。ミシュは皆と一緒に帰還しなっ」

「何言っているですか、そんな体でA・Hが操縦出来ると思っているんですか、これ以上

無理したら命に関わりますよ」

ヴァイはイフリータの忠告も聞かず肩を離れ、フラフラと再びノヴァへと歩き出した。

「待ってっ!ヴァイ君はズルイよ、いつもいつも私をかばって、自分だけが犠牲になる

んだから・・・もっと私を頼ってください!

ヴァイは振り向き立ち止まった。

「カッコイイだろ、正義の味方だからな」

「そんなボロボロな正義の味方、嫌いです!・・・。でも、そんなふうに思ってくれるヴ

ァイ君は大好きっ!」

「ミシュ・・・」

「だから・・・私が行きますっ!」

そう言うと、涙に滲んだ顔を上げ、精一杯の笑顔を見せた。

「な、何を言っているミシュ」

「私も自分の運命を受け入れ戦います・・・・これは、私の戦いなんですっ!」

私はRISCに対して、どこか逃げていたのかも知れない、だからヴァイ君に怪我を・・・

強くなりたい大切な人を守る為に。

「リアは私に言いました大切な人を全て奪うと。私、守りたいんです。大切な人、全てを・・・

それがRISCとの本当の決着になると思うんです」

「ミシュあなたって子は・・・」

エレアは何か言おうとしたが、途中で言葉を濁した。

ヴァイは、ミシュタルの言い出したら利かない性格を知っていた。

「ヴァイ君ごめんね、最後は二人だけで決着つけたいから、後は私1人で行きます。エレ

アさん、ヴァイ君の事お願いします。」

「まかせて、無事に送り届けるから」

「ち、ちょっと待てよ、何?この展開は」

「操縦の事なら平気です。アルスシステムがあるので大丈夫です。それに、ヴァイ君のそ

の怪我では・・・」

「ようするに、あなたは足手まといって事、ここはミシュタルに譲りなさいヴァイ」

ヴァイが再び口を開こうとしたが、ミシュタルの気持ちを汲み取ったエレアが静止させた。

「ヴァイ君、時には私を頼ってくださいな、私達パートナーじゃないですか。パートナー

は助け合うものですよ」

「ミシュ・タル・・」

 

 

ピピピ・・・・・

突然、ノヴァのコックピットから音が鳴り、イフリータがコックピットの中へ入って行

った。

「マスター、ウインダムから通信が入っています」

「ネヴァの方に回してくれ」

エレアはディアンシェの体を床に降ろすとコックピットへ掛けて行った。

「こちらウインダム、乗組員の救出に成功。そちらの状況を報告してください。こちら

ウインダム・・・」

「こちらエレア」

「どうして、エレアさんがそこに」

「理由は後、こちらもディアンシェ博士の救出に成功しました。艦長、これよりRIS

Cを破壊します。エディンから早く離脱してください」

「わかりました」

通信が終わるとコックピットから顔を出し叫んだ。

「さあ、脱出よ」

イフリータはディアンシェを抱え、ミシュタルはヴァイを抱えてネヴァのもとへやって

来た。

「しかし、A・H一機に四人乗りは流石にキツイわね」

その時、暗闇の通路から、エヴァが現れた。

「生きているかヴァイ」

「ラ、ライーズか」

「なぜエレアさんまで?

「丁度良かった理由は後、早速で悪いがライーズ、ヴァイを頼む」

ミシュタルは、エヴァから降りてきたレイリアにヴァイを託し、ノヴァに一人戻りだした。

「ミシュタル、ちょっと待よ」

「な、なに」

「これ・・・持っていきな」

軍服のポケットの中から、街で貰ったペンダントを取り出した。

「奇麗なペンダント・・・・」

「お守り・・・・何かあったら、これにお願いするんだ。必ず叶えてくれる

はずさ。さあ、後ろ向いて」

こんな形では合ったが、ヴァイからの初めてのプレゼントは、ミシュタルにとっては嬉

しかった」

「似合いますか?」

「もちろん」

二人はしばらく見詰め合っていた。

「じゃ、行きます」

「エディンに戻ったら、また、歌を聞きにいこうな」

「ハイ」

ミシュタルはいつもの元気な笑顔で返事をした。そして、振り向きノヴァへ向かい歩き

出した。その顔には、ヴァイに見せた笑顔が消え、いつのまにか瞳には、あふれんばか

りの涙が溜まっていた。

ヴァイはライーズの機体にディアンシェはエレアの機体へと乗り込む。

ミシュタルはマスターのいない機体、ノヴァのシートへ座った。アルスシステムを発動

させノヴァが飛び立つ、上空に浮かぶハイメガランチャーを拾いアクセレータフィール

ドを展開させた。ノヴァは一度、二体のA・Hを見ると戦艦の心臓部へと突入して行った。

「父様、狭いですけど我慢してください」

「ああ、大丈夫だ」

「準備できたかいライーズ」

「いつでも行ける。うるさいのが目障りだが」

「私のネヴァが先行する。それじゃ行くよ、ライーズ」

「了解」

ネヴァが無傷の為、エヴァの盾となる形で通路を先導し出口に向かった。ライーズはレ

イリアの事を考え、システムをハイトプルへと移行させた。

「ところでライーズ、なんで戻って来た?」

「隊長のA・Hは平気だったんだよ、隊長がみんなを連れて戻った。それで、これを持っ

て行ってやれていうから」

「予備のバッテリーパックか」

「お前のノヴァにも着けてやった。」

「高見の見物決めこんでいたのか、くえねえジジィだな。」

その時、機体に振動が走り、ヴァイが傷付いた腕を押さえてうずくまる。

「大丈夫ですか?」

ヴァイがレイリアに抱き着いた。

「レイリア・・・」

「ヴ、ヴァイ、レイリアから離れろ!」

ライーズは、いつものようにふざけてやっていると思っていた。

「ヴァイさん、マスターに怒られますよ」

「・・・すまない。こんな事をやっていないと気がまぎれねぇんだよ」

ヴァイは拳を握り自分の太股に何度も振り下ろした。腕の傷口は、赤く血が滲み滴り落ち

ていた。

「頼りないよな情けないよな、肝心な時にこんな座間で。ミシュタルには辛い思いをさせ

て、自分の無力さをおもいしらされるよ」

「やめてください、傷口が開きます」

レイリアはヴァイの腕を握り静止させた。するとヴァイはレイリアの膝の上に崩れ去り、

いつのまにか涙を流していた。

「ヴァイ・・」

レイリアは、いつの間にか膝にもたれ掛かったヴァイの頭をさすっていた。

「ミシュタルと交信しますか、声だけなら数分間だけできます。」

ヴァイは声を出さずに頷いた。レイリアは、手元のパネルを操作しノヴァとの通信回線

を開いた。

「ミシュタル・・・」

「マ、マスター?」

「そのままで聞いてくれ」

「ハイ」

「君に渡したあのペンダントには、古い言い伝えがあるんだ」

ミシュタルは、今まで握り締めていたペンダントを広げて見た。

「昔々、愛し合う男女がいました。ある時、戦争が始まり男は戦場へ駆り出され、分か

れ分かれになりました。激しく長い戦いでした。戦争も終結し平和が訪れました。でも、

男は戻ってきませんでした。それでも女は待ちつづけました。男にプレゼントされたペン

ダントに願いながら。いつまでも、いつまでも・・愛する人の為に・・・。ある時です。

いつものようにペンダントを握りしめた祈り始めた時です。天空から見た事も無い眩いま

での光が、注いだのです。そして、光の中から男が現れたのです。二人は抱き合い喜び、

永久に幸せになりました。」

「マ、マスター・・・・私、・・必ず戻ります・・待っててください」

ジジジィ・・・・

「交信不通に」

「ありがとうレイリア」

「レイリア宇宙にでるぞ。サポート頼む」

 

 

レイリアは素早くハイトプルからプリットへ移行させた。その時、タイミングを合わせ

るかのようにコックピットのバッテリーのマークが点滅する。

「マスターバッテリーパック ノ残量ガアリマセン。予備バッテリーヘと切り替えます」

「分かった。ウインダムと合流するポイント06へ」

「YES MASTER」

ピピピピ・・・・

A・H内に警報が鳴り響く。

「マスター、エディン カラ九時方向二未確認ノ艦影ガアリマス」

「なに!」

一方、ネヴァも艦影を補足していた。パネルのウインドウが開き戦艦の最大望遠の映像

が映し出された。映像を見たディアンシェが口を開いた。

「あ、あれは、カスパ星、レークラウス公国の戦艦グラウド。あのババアが動いたのか」

「マスター、グラウド エディン二 バスターロックヲカケマシタ」

「なに、」

「誰か、止めてくれ、中にはミシュタルがいるんだぞ」

ディアンシェはミシュタルを助けようと、旧友に説得を試みようとする。

「イフリータ、グラウドと至急通信を繋いでくれ」

「イフっ!」

「分カリマシタ・・・ダ、駄目デス。受ケ付ケテクレマセン」

「誰にも邪魔をさせないと言う事か」

「何とかならないのか」

ヴァイは唇を噛み締め、苛立っていた。

「しょうがない、やるだけの事はやってみるか」

モニター越しにヴァイのそんな姿を見て、ライーズは機体を戦艦グラウドに方向転換さ

せた。

「ライーズ・・」

「やめなさい!ライーズ!!」

戦艦グラウドに行こうとしたエヴァをネヴァが制止させた。

「私達一個人が言ったところで、どうにもならないわ。無駄死にするだけよ」

「コノママデハ、私達モ巻キ添エヲクイマス」

「ミシュタルなら大丈夫・・・信じましょう・・」

「すまないヴァイ。レイリア、合流ポイントへ」

「YES MASTER」

「ミシュタル・・」

 

 

戦艦グラウドのブリッジでは、巫女の姿をした女性ズザが指揮をとっていた

ズザ・クラナドは滅国アフェトリア公国の元参謀で、今はレークラウス公国の軍事参謀

をしている。戦略においてはズバ抜けた才能を持っており「軍神巫女」の異名を持つ。

「情報を受けて来てみれば・・・・何たる事を・・・」

「依然、敵戦艦は沈黙しています」

「RISCがどれだけ危険なものか身をもって知っているくせに、ディアンシェあなた

は何を考えているの。十三年前あんな事言っておきながら、今頃になって惨劇を繰り返

そうというのか」

目の前の機器に、両手を叩き付け立ち上がる

「させない!RISCを破壊して無に返す!!」

周りのオペレーターから、次々と報告が続く。

「艦橋にコーティングフィルター降ろします」

「敵戦艦補足、ロックしました」

「出力80%突破!」

「その艦ごと宇宙の塵としてくれるわ」

「バスターランチャーの最終安全ロック解除」

「バスターランチャー準備できました。いつでも打てます」

中央に置かれたスクリーンに映し出されたエディンに向かい、ズザが腕をかざす。

「目標、エディンの新造戦艦・・ファイエル!!(撃て!!)」

 

 

 「マスターありがとう」

ドドドド・・ドド・・・

爆音と共にノヴァに衝撃が走り、ミシュタルの体を左右に揺さ振られる。

「ノヴァ頑張って、もう少しだから・・」

ノヴァは艦内防御システムの攻撃にさらされていた。アクセレータフィールドのおかげ

でレーザー系は防げるが実弾系のミサイルは交わす以外なかった。反応弾が雨のように

むかってくる。アルスシステムのおかげで、自分の体のように交わすが、その分疲労も

溜まってきて、コンマ台の反応差で直撃を食らう。

「キャアアア・・・・」

ノヴァの装甲はボロボロでアクセレータフィールドのせいかバッテリーの消費量もいちじ

るしかった。

通路が行き止まりとなり、突き当たった隔壁をハイメガランチャーで破壊する。そして、

その爆風に紛れて先に進んだ。すると中央にクリスタルの置かれた開けた場所に出た。

「見えた」

ノヴァはRISCの頭上を捕らえ、ハイメガランチャーを構えた。

「これで終わりにしましょう」

RISC本体をかばうようにリアが現れる。リアの体には所々にヒビが入り無残な姿だ

った。裏を返せば、まだ完全修復出来ていない表われであった。

「ヤ、止メルノヨ ミシュタル」

「これが私の意志」

ピピピ・・・・

「え、バスターロック」

「何、私シガ バスターロック サレタ?」

ミシュタルとRISCが眩いまでの光につつまれる

「マスターもう・・・帰れない・・」

 

 

 ヴァイ達はウインダムに帰逃した。このままでは、エディンの衝撃波に巻き込まれてし

まう為、一時退避し資源惑星デアスに降りる事になった。

エディンに帰逃した六人は、複雑な思いの間々着替えもせず、外の見える展望室にいた。

「何なんだあの戦艦突然現れて」

「レークラウス公国の戦艦グラウド。そして中にいるのは、多分、旧友のズザだ」

「ディアンシェ」

ヴァイは、我を失いディアンシェの胸倉を掴む

「やめなさい。ヴァイ!」

エレアがヴァイの腕を掴み静止させる。

「まだ、死んだとは限らないわ。脱出したかもしれないじゃない」

「無理だ。俺達が出て来て直ぐの事。中心部へ向かったはずのミシュタルが間に合うは

ずが無い」

ヴァイは自分の愚かさに気付き、ディアンシェから手を放し倒れ込む。

「ヴァイちょっと外に行って頭を冷やしていらしゃい」

「す、すまない・・ディアンシェ」

そう言うと、ヴァイは部屋を出て行った。

 

 

ウインダムは海岸近くの海に不時着していた。辺は、もう夕暮れで海岸線に並んだ風力

発電に利用されている大きなプロペラが海風で回転していた。

ヴァイがウインダムの甲板に出て来る。夕日に照らされ、顔に心地よい潮風が吹きあたる。

「ふーっ・・」

ヴァイは天を仰ぎながら大きく深呼吸をし、そのまま大の字に倒れ仰向けになった。そ

して、紅色の雲が広がる空にミシュタルの面影を映し出す。

「ミシュタル・・・」

どこからとなく風にのり、歌のハミングが聞こえてきた。

ラララーララララ、ラーラララー・・・・

空耳と思っていたが、心なしか段々近づいて来る様に思えた。

「この歌は、エンジェルウイングのコンサートで聞いた・・・」

その時、紅色に染まった雲が割れ、光が射し込んできた。

「あ、あれは・・・」

天空より光に包まれた一人の少女が降りて来た。まさにその姿は、大きな翼を広げた天

使のようだった。

ヴァイは少女を誰なのか確認しょうと、無意識のうちに体を起こし立ち上がった。

「ミ、ミシュタルか」

ヴァイは、掲げた手で眩しさを堪えながら問い掛けた。すると、その言葉に反応するかの

ように光の中の少女の瞳がゆっくりと開いた。

「マ、マス・・―・・ヴ、ヴァイ君!!」

いつのまにかミシュタルの瞳には、溢れんばかりの涙でいっぱいだった。

「ミシュ」

ミシュタルを覆っていた光の膜が弾けて、ヴァイの胸へ飛び込んだ。

お互いの腕が絡み合い初めてのキスを交わす。あまり上手いキスだとは言えないが気持

ちを伝えるには十分なものだった。ヴァイは唇を離すとミシュタルの体を強く抱きしめた。

「ヴァイ君、痛いよ」

「あ、ゴメン・・」

「くすっ」

微笑みを浮べたミシュタルの頬は、夕焼けのせいなのか、それともキスのせいなのか分

からないが、紅色に染まっていた。

 

 

ローレライ宙域には、バスターランチャーに破壊された戦艦エディン残骸が漂っていた。

その中には腕と足の無いボロボロになったノヴァの姿と、至る所ヒビが入り怪しく輝つ

づける核を持つRISCがあった。

 

ノウェル暦2012年 運命の歯車が動き出した晩夏の出来事でした。