第二章 滅びし王国

 

 

岐路

 

 レークラウス公国の事件の公表により、ローレライ星域でのRISC(リスク)の開発

および暴走は瞬く間に星系中の知るところとなり、エディンは諸国からの非難をうけてい

た。

平和主義国家であるセレネ公国の意外な行動に、各惑星の国々に波紋を投げ掛ける結果と

り、諸国からセレネ王国軍部への問いかけが殺到し、対応におわれ混乱状態に陥っていた。

それに気掛かりになる事が一つ、戦後処理で戦艦エディンの残骸を回収した際、RISC

の破片が一つも見つからなかったのである。軍上層幹部はそんな事を気にも止めず、グラ

ウドのバスターランチャーで蒸発してしまったと言う安易な答えに達した。

星系中の諸国への見解でもRISCは跡形も無く蒸発したと発表された。後にこの発表が

疑惑を残す結果となった。

そして、ミシュタルの無事帰還した件だが、ディアンシェが調べた結果、ペンダントの

内部に特殊な機能があり、周囲二メートルに膜を作り所有者をあらゆる物から守る事が出

来るものらしい。しかし、この技術には今の科学で解明できないものが多く使われていた。

 

 

 季節は何事も無かったように移り変わり、ローレライ宙域の出来事から一ヶ月余りの時

が経っていた。

 ヴァイの重傷を負った腕の傷も治り、自由に動かせる所まで回復してきた。

セレネ王国の首都セリアースの郊外にヴァイの家はあった。軍本部からは離れている為、

軍に行く時には不自由するが、生活自体、周りは庶民的な人情味溢れて楽しく暮らすには

最高の場所だった。

軍の管理下には都市の一等地に設けられた最新設備の整った貸宅もあるのだが、気分的に

窮屈な感じで、仕官学校の卒業と同時に引っ越していた。

 ヴァイの家には近代設備などは通信用の端末をのぞき一切無い、レンガ畳みの西洋風の

アンティークなアパートの日当たりも良好な三階にあった。

引越して来た当時は近所の人々は軍人と言う事もあり、最初は抵抗が有ったが、明るい人

柄か直ぐに溶け込んでいった。こんな環境の方が、ヴァイには生に合っていた。

 パートナーであるミシュタルも同アパートの二階に住んでいた。ディアンシェの屋敷か

らだと時間がかかり何かと不便とか、パートナーの近くに居た方が緊急時の連絡も取りや

すいなどと理由を付けて移り住んでいる。ミシュタルが移り住み始めた頃、周りの人々は

ヴァイのパートナーと知りつつもプリットであるがゆえ抵抗があり避けていたが、接して

いる内に人間と何ら変わらないと分かると、そんな迫害は消えて無くなっていた。ミシュ

タルにとってそれは何よりも嬉しい事だった。対等の立場で見てくれているという感覚が

生活の中で気を使うことなく溶け込んでいくのが分かった。

 ヴァイは二週間前から自宅療養を強いられていた、何かと不便な事もあり身の回りの世

話をしてくれるミシュタルがいて助かっていた。ただ通院のたびに付いて来ては、横で軍

医の話を熱心に聞く姿は、何か母親に連れられた子供の様で嫌だった。何度か付いて来な

い様に断わりを入れたのだが、マスターの体調を知っておくのもパートナーの仕事ですと

言いつつ断固として聞かなかった。結局、二人の通院の日々が続いた。

 そんなある日、軍医から無事に軍への復帰が了承された。と同時に、軍部から皮肉めい

た様に出頭命令が下った。

 

 

出頭当日、ミシュタルは約束の時間まで余裕を持ってヴァイの部屋に顔を出していた。

「ねぇ、ヴァイ君起きてる?」

ミシュタルはプリットスーツの上にエディン軍のマーキングの入った白いフードを羽織り

目立たないような格好だった。プリットが軍に赴く時の格好としては一般的だった。

「急がないと約束の時間に遅刻ですよ」

ヴァイは二日酔いで寝ぼけた目を擦りながら、軍服に着替えていた。ミシュタルは辺りに

散らばった服を片付けて洗濯機に押し込んだ。

「ねぇーヴァイ君、洗濯機のタイマーかけておくね」

「うーっ気分悪りーっ」

「早く着替えてくださいよ、時間無いんですからね」

「分かっている」

ヴァイの着替え終わった姿を見てミシュタルが近づいて来た。

「ほらほらヴァイ君軍服の襟が曲がってるよ。直してあげるから顎上げて、ホントだらし

ないんだから」

ミシュタルは正面に立たせると、背伸びをして直してやった。幼い頃と違い自分より背が

高く逞しい姿に喜び感じていた

「うっ、頭がガンガンするよ」

頭に手をやりながら、ベットに腰を下ろす。

「昨夜あんなに飲むからですよ。病み上がり早々に回帰祝いだとか言って…止めたのに」

「えっ誰が?」

ミシュタルは溜め息を軽くつくと、責任感を感じていない張本人に指を差し答えた。

「ヴァイ君」

ミシュタルは腰に手を当てると説教めいた口調になっていた。

「聞いていますか?だいたい私が見に来なかったら、どうなっていた事か」

「でもさ、もっと早く着てくれれば、こんなに急がなくても良かったんじゃない」

「私は早く着ました。ヴァイ君が起きないから悪いんですよ」

「そんな事はないぞ」

「私が、あんなに揺すったのに…ヨダレたらして寝息立てているんですもの」

ヴァイは頭を掻き困った顔をした。

「それは…しょうがない」

「う゛ーっズルイ…」

ミシュタルは頬を膨らませた。そして、何気なく腕時計を見たミシュタルが叫んだ。

「えっ、も、もうこんな時間」

「仕度も整ったし行くぞ」

「はいっ……(洗濯物大丈夫かな?)」

ヴァイとミシュタルは部屋を後にし、アパートの階段を下り大通りへと出た。通りの両端

には、多種多様の路店が建ち並んで、お昼時の人々で賑わっているいつもと変わらない光

景が目の前にあった。

「あらヴァイ、怪我はもう大丈夫なのかい」

路店で果物を売っていた体格のいい顔見知りのおばちゃんが声を掛けて来た。

「ああっ、この通りさ」

ヴァイは腕を上げて自由に動かしてみせた。

「直ったばかりなんですから無理しないでくださいよ」

「分かっているって」

「良かったね。これ持っていきな、回帰祝いさ」

そう言うと、ヴァイに向かい林檎を放り投げた。

「ミシュタルちゃんに心配かけるんじゃないよ」

ヴァイは林檎をキャッチすると手を振り答えた。その横でミシュタルは立ち止まり軽く会

釈した。

「ほら、早くしないと置いて行くぞ」

「あっ、待ってくださーい」

ミシュタルはヴァイの後ろ姿を追った。人ごみの中に二人は消えて行った。

 

 

 一ヶ月経つが未だに軍の施設の中は慌しく人が行きかい、各国へ対応により混乱状態で

RISCの件の波紋が治まっていなかった。ディスクの灰皿はタバコが山盛りになり、休

憩室の椅子に横たわり仮眠とる者もいた。牢獄と化した施設に中間官僚は泊り込みの毎日

を余儀なくされていた。

 タッタタタタタ…。

「ヴァイ君、建物の中で走るのは厳禁ですよ」

「緊急なんだ仕方ないだろ」

「でも…」

「おっとゴメンよ」

「きゃっ」

書類をもった秘書らしき女性の横を通り過ぎて、書類を落としそうになり、とっさにミシ

ュタルが慌てて書類を押さえる。

「どうもすみません」

「あ、大丈夫ですよ。気にしないでください」

女性は体制を立ち直すと振り向き、通り過ぎた男の後姿を見た。

「元気なマスターですね」

ミシュタルは頬を赤らめて困った顔をした。

その後もミシュタルは、ヴァイの通りすぎる人々に後からお詫びを続けるはめに。

ヴァイが目的の隊長室に着いた時、中からプリット連れの美男子が出て来た。

「おっ、ヴァイっ」

隊長室から出てきたライーズ達とすれ違う。

「お前にも出頭命令がでたのか」

「ってことはお前にもか」

「ああ」

「こんにちはヴァイさん…」

レイリアはどこか元気がなさそうに俯き顔で挨拶した。

「おっす!」

レイリアはヴァイの体から立つ異臭に気付き鼻を摘んだ。

「ヴァイさん…お、お酒…臭い」

「お前な、その匂を何とかしろ隊長にどやされるぞ」

「そんなに臭うか…クンクン・・」

「まったく、ミシュタルちゃんの苦労が目に浮かぶぜ」

「それほどでもないぞ」

「おまえが答えてどうする」

呆れたライーズは隊長室を指差した。

「さっさと行け隊長がお呼びだ」

「へいへい」

「待ってくださーい」

元気なマスターの後始末で遅れてミシュタルが通路からやって来た。

「あ、忘れてた」

ミシュタルがようやく合流しライ−ズ達に挨拶をする。

「ヴァイ君、走っちゃ駄目です」

ヴァイの頭にコツンと一発いれてやった。

「痛っ」

ヴァイは頭を押さえた。思わぬ一撃だったのか効いている様だった。

「皆の迷惑ですよ」

「わ、分かったよ、時間がないんだ入るぞ」

「それじゃヴァイ」

「ああ」

ヴァイとミシュタルはドアの前に立つと横に付いているボタンを押す。

「ヴァイ、ミシュタル両名命令により出頭しました」

「入れっ!」

ヴァイとミシュタルが部屋の中に入ると、姿勢を正し敬礼をした。

室内に入ると隊長のロイとパートナーのミリスがいた。

ミリスは隅のデスクに座り、コンピュータを使い事務的な作業をこなしていた。

ロイはヴァイ達の方を向こうとせず、ガラス越しに外を眺めていた。

「ヴァイ予定時刻を過ぎているぞ、また遅刻か」

「まっそんなところです」

ヴァイはロイが見ていない事をいい事に、そっぽを向きながら答えた。しかし、その姿は

ガラスに映り、ロイから丸見えだった。

その事に気づいた後ろにいたミシュタルは、顔に掌を当て困った顔をするしかなかった。

「病み上がりは分かるが、時間は厳守してもらいたいものだな…少しはライーズを見習っ

て欲しいものだ。同期ながらこうも違うとは、まったく先が思いやられるよ」

「…」

「あと、軍に来る時は酒を抜いてから来い、臭くてたまらん」

「人の事言える立場かって…自分だってやるくせ」

「何か言ったか?」

「いいえ、独り言です」

ロイは外を眺めていた体を向きなおし、正面のデスクに座り、両肘を突き両手を組むとヴ

ァイの方を向き話を再開させた。

「前置きはこれくらいにして、さて今日二人に来てもらったのは他でもない、先の作戦の

功績が認められ、新設された15部隊の隊長に着任してもらう事になった。」

「えっ?!功績?隊長?」

ヴァイは何か言いたそうな顔をしていたが、それに割り込みを入れるように続けざまにロ

イが話し始めた。

「お前の言いたい事は分かっている。が、形はどうあれ上層部からの命令だ聞かんわけに

もいかんからな」

「分かっているんなら、どうしてこうなるんだよ」

「実はな俺も、実力が付いてきたお前が一人立ちするにはいい時期だと思っていたところ

だ。A・Hの操縦は一流、状況判断も前の作戦では見事なものだった。後は責任感と言う

のが有れば申し分無いのだがな」

「くそ、そういう事か、グルになりやがって」

「それに、うちの部隊きっての問題児がいなくなり清々するしな」

ロイから言っている事は正論なだけに、ヴァイには言い返す言葉が出てこなかった。

軍に入隊してからのヴァイの経歴は凄まじいものが有った。作戦などは無難にこなしてい

たが、徴集時の遅刻は2桁を越えており、その他、職権乱用、食い逃げ、公共物破損など

始末書ものを加えると群を抜いていた。しかし、ミシュタルと組んでからは、数回の遅刻

程度と激減していた。

「観念しろ」

「しかし、隊長なんて…面倒だな」

「少しは責任感と言うものを見せてみろ」

「辞退します。俺の器じゃない。」

「部下が付くぞ」

「仕事が増えます」

「給料上がるぞ」

「それじゃ、退役します」

「な、何っ」

「だから、軍を辞めます」

「な、何を言い出すかと思えば、また、いつもの冗談か?」

ロイは、いつもの悪ふざけと思っていたが、ヴァイの目はいつもと違い真剣な眼差しだっ

た。そう、戦闘中の目そのものだった。

「いや、本気です」

意外な雰囲気にロイは動揺交じりの表情を見せた。

「実を言うと前々から決めていたんです。RISCの件がかたずいたら軍から離れようと」

「それで止めてどうするつもりだ、あてはあるのか」

「さすらいのアウトローにでも」

「本気で言っているのか」

「近からず遠からずと言ったところです。詳しくはまだ決めていないが、星系中を気まま

に旅をしようかと思っている事は本当です。色々な世界や情勢を見つめ、これから自分は

どうすればいいのか、そして人としてどう生きてゆけばいいのかを探したいと思っている」

「まさか、お前の口からそんな言葉が出てくるとはな、正直意表を突かれたよ」

これがお前なりの一人立ちと言う事か…

「単なる肩書きかも知れないけど、思うところはあります」

「お前の事は分かった、パートナーのミシュタルはどうするつもりだ。一応、軍の所属と

なっているから、このまま軍部に残ることになり新たなパートナーに付いてもらう事にな

るが…」

「その事は俺も考えました。ミシュタルはここに残った方が幸せかもしれない、俺に付い

て来ても、その日暮の生活で足手まといになるだけだから、なにより一人のほうが気楽で

いい」

ヴァイは表情には出さなかったものの心中ではミシュタルを一緒に連れて行くか揺れてい

た。結果、これが考えたあげくの答えだった。そこには素直になれない自分自身がいた。

予想もしてない突然の別れの言葉に、ミシュタルの目の瞳孔が開いた。

「ヴァイの意見は分かった。ミシュタルお前自身はどうなんだ。どうしたいんだ」

「えっ、…」

不意に意見を求められミシュタル自身戸惑っていた。私の心理を知っいてヴァイが辛い思

いをさせないように仕組んでいたのも痛いように分かった。そして、それに応えるかどう

かに悩んでいた。でも、ミシュタルは自分自身に嘘をつくなんて出来なかった自分に正直

になりたいと思った。そして進む道は決まっていた。

「マスターが許していただけるのならばついて行きたい。いえ、誰がなんと言おうと付い

ていきますっ!」

ミシュタルの声は静かな室内に響いた。

「私が付いていれば、マスターも野垂れ死にしないと思うし、それに、いくら辛くてもマ

スターといたほうが楽しい、何より同じ時を生きるって約束したんです」

「だとさヴァイ、これは連れて行くしかなさそうだぞ」

ヴァイは思ってもいない展開に複雑な表情を見せた。

「しかし、これは一大事だな、この二人の退役は軍にとっては大損失だなミリス」

「そうですね。フフフフ…」

「しかし困ったな。ヴァイ一人位の退役なら問題ないのだが、ミシュタルも一緒となると

上層部のやつ等がスムーズに了解してくれるかだな」

RISC件でミシュタルの実力は承認済みで、そう簡単に軍も素直に了解できるとは思え

なかった。

「俺はオマケか」

「近からず遠からずと言った所だ」

「ちっ」

「一応、俺の方から退役の打診は出しておくが、期待しないで待っててくれ…なーに、悪

いようにはしない、いざとなったら俺自身が上層部に掛け合ってやるさ」

「いい返事を期待しています」

「ああ、今日は以上だ」

ヴァイとミシュタルは敬礼をすると後方のドアへと歩き出した。

「そうだ今日は、エディン独立記念日で軍主催のダンスパーティーがあるから二人も行っ

てみたらどうだ。これで最後になるかもしれないからな。」

ヴァイは振り向こうとせず片手を挙げ応えた。そして、二人はドアの向こうへと消えて行

った。

 

 

二人が退出するとミリスはデスクを立ちロイの側にやって来た。

「姉さんとミシュタルってそっくりですね」

「そうか、シーリアの方が美人だぞ、それにスタイルもいい」

「そんな外見の事じゃなくて」

「強い意志、マスターを思う心」

「あいつの子だ似てない訳がないだろう」

ミリスは胸の前で手を組み、俯きになった。

「ロイ、どうかお願いします。 ミシュタルの願いを叶えてやってください」

ロイはデスクから立ち上ると、ミリスを両手で抱いた

「分かっている…もし、シーリアいたら同じ事言うだろうな」

「そうですね」

ミリスはロイも同じ事を考えいたのだと知ると、それ以上の言葉は出てこなかった。

 

 

空は満天の星空に満月が輝いていた。

王室の大広間では、軍が主催するダンスパーティーが行われていた。

大広間では皇女をはじめとした貴族と軍関係者が集まり、雑談をしたり、音楽にのりダン

スを踊ったりと祝いの宴を楽しんでいた。

そんな中、花火の大輪に照らされ、ヴァイは式典用の軍服着て広間のテラスに一人佇んで

いた。

ヴァイ自身は乗り気ではなかったのだがねミシュタルが初めてと言う事で誘われてい来て

しまっていた。

「ふーっ」

「どうしたんですか、こんな所で黄昏ちゃって」

テラスの手すりに寄りかかっていた体を起こし振り向くと、ドレスに身を包んだの女性が

いた。

「あ、レイちゃんか」

「シャンパンの飲みすぎかな、風に当たりたくなっただけさ」

しかし、ヴァイからは、昼のような酒の匂いはしていなく、レイリアは悩んでいるように

思えた。

レイリアはヴァイの隣に来ると手すりに寄りかかると、風に揺れる短めの髪を掻き上げた。

「気持ちイイですね。心地いい風…」

「ちょっと顔出し程度に来てみたんだが、どうも場違いかな」

「そんな事無いですよ、軍服を着たヴァイさんって凛々しく見えますよ」

「ありがと…レイちゃんのドレス似合っているよ」

「…ありがとうございます」

その後、二人の間には少しの沈黙が続いた。

「あっ、そういえば軍止めるそうですね」

「ああ、前々から決めていたんだ。でも、まだ正式に決まった訳じゃない」

「そうですか…・」

「まっ、RISCが無くなった今、軍に留まる理由も無くなったっし、自分に正直に自由

に生きてみたくなったってところかな」

「あの…私のマスター、辞令を貰いました」

「ライーズもか」

「はいっ、今度部隊長になります。本当はヴァイさんと二人で部隊を組む予定みたいでし

たけど…」

「そう言う事だったのか、くえない親父だなロイ隊長は」

「えっ、」

「いや何でもない、ライーズなら一人でも大丈夫さ、俺とは違って冷静でどんな状況にも

的確な判断できるしな、心配する事ないよ」

レイリアは俯き顔になり、ポツリポツリと話し始めた。

「私は今までの様に部下でいた方がが良かったです…実を言うと私は話すのもあまり得意

ではないので…今後どうすれば良いのか…」

「だからか、お昼にすれ違った時に元気がなかったのか」

「気づいていたんですか」

「まーね、レイちゃんの事はお見通しさ」

「…」

「ところでライーズはどうした。来ているんだろ」

「広間で軍関係者と話ししてます」

「相変わらず堅い事で…あいつは俺とは違って上に立つ人間さ、偉くなってもらわないと

困るからな」

口は開くがレイリアは相変わらず暗い表情のままだった。

「大丈夫だよ。ライ−ズだって、そんな事見通していると思うぜ。奴なら何とかホローし

てくれるさ。もし、…だったら俺から…・」

「あっ、ヴァイ君見つけた」

白いドレスに見を包んだミシュタルが姿を表した。

「こんばんは」  

「あ、レイさん…お邪魔でしたか…」

「もう、話終わったから。それじゃ」

そう言うと、レイリアはテラスから出て行った。

「追いかけなくていいんですか?ヴァイ君」

「まあ、俺じゃどうしょうも無いからな」

「?!」

ミシュタルは意味が分からず首を傾げた

「それより、あんな事言いやがって、俺に付いてきて本当にいいのか、後悔するぞ。」

「もう、その話は聞き飽きました。私自身が決めた事ですから後悔はしてません」

「しかしだな…」

「もうこの話はお仕舞いにしましょう。せっかくパーティーに来たんだし、踊りましょう

よ」

「遠慮しとくよ、お俺ダンス苦手だし」

「私が教えてあげますよ」

「おいおいっ」

「ほらほらっ」

ヴァイはテラスからミシュタルに背中を押されながら、広間の中に戻っていた。

 広間にはオーケストラが入りクラシックが流れ、若い軍人達がダンスを踊っていた。ミ

シュタルに連れられ、ヴァイは広間の一番目立つ場所に陣取った。

「そんなに中にいかなくても」

「いいの、いいの」

ミシュタルはスカートを摘み軽く持ち上げお辞儀をした。ヴァイも戸惑いながらも挨拶を

交わす。そして、二人のダンスは始まった。

ミシュタルはヴァイの腕を取りリードをするが、それにヴァイの体はぎこちなく全然つい

て来ていなかった。幾度となくミシュタルの足を踏み、周りの人にぶつかったりと迷惑を

かけダンスと呼べるようなものではなかった。

「痛っ」

「ゴメン」

「気にしないでください」

「もう止めよう無理だよ。皆見ているし」

「大丈夫ですよ、私の動きに合わせてください。ほらほら」

いつの間にかヴァイ達は会場の注目の的になっていた。時が経つにつれミシュタルの上手

いリードのおかげか、ヴァイの踊りもさまになってきて、それなりに見えていた。

そして、音楽が終わると周りから、二人に対して喝采の拍手が沸き起こった。

ミシュタルは、ヴァイの顔を覗き込んだ。

「どうでしたか?」

「もう、これで最後にしてもらいたいよ」

その言葉にミシュタルは笑って見せた。