Nowel Storys

プロローグ

 

 

小さな約束

 

人類が生まれてから数億年、「戦いの歴史は進歩の歴史」と言われるように、幾度とな

く争い血を流し、そのたびに目覚しい進歩を遂げてきた。このノウェル星系も例外では無

かった。その恩恵の結晶と言うべき兵器が、汎用コンピュータ人型兵器アーマーヘッド(以

後、A・H)である。

A・Hの構造は人間がベースとなっており、動かすためには、超高速処理可能な脳、つ

まりCPU(中央処理装置)が必要だった。 そこで目をつけたのが無限の可能性を秘めた

人間の脳である。人間の脳をA.Hとシンクロ(同調)させる事により、A・Hを人間並

みの動作を可能とさせた。その為に、幼い人間に遺伝子操作、脳の強化、薬物投与、など

の残酷な実験が幾度となく行われ多くの犠牲ともなった。そして、誕生した強化人間がセ

ントラルプロセッサヒューマノイド(通称、プリット)である。

ノウェル星系を舞台とした、究極兵器と悲劇の天使の物語は、こうして始まる。

そう、永遠の夢の中で。

 

 ノウェル暦3003年・・・。

春の遠い午後、雲一つない青空が広がっている。そんな中、丘の一本の大きな木の木陰

で、幼い少年と少女が遊んでいる。

少年は木の幹に寄り掛かりウトウトして眠気に誘われている、その裏の木陰では、スカ

ートの少女が草の上に腰を下ろし、今、つんで来たばかりの沢山の花で首飾りを作ってい

る。初めて作っているのだろう、手の付きにぎこちなさを感じる。でも、少女は悪戦苦闘

しながらも夢中になっている。

 幾時間経ったのだろうか、西の空は薄っすらと紅色に染まり始めた頃、少女は出来上が

ったばかりの花の首飾りを天にかざした。そして、軽く微笑むと少年の方へ向かい歩き出

した。少年の側まで来ると、首飾りを体の後ろに隠し、少女は少年の顔を覗き込む、寝顔

に向かい笑顔で名前を呼んだ。

「ねぇ、ヴァイくん!」

少女は軽くヴァイの胸を擦る

「ヴァイくんってば!!・・・起きてよ」

「んっんんん・・・」

ヴァイは、眠い目を擦りながら、木の幹から体を起こした。段々、視力が回復して目の

前の少女の名前を呼んだ

「んっ・・んん・・・ど、どうしたのミシュタルちゃん」

ミシュタルは、微笑んだ顔を更に近づけてきた。

「ねぇヴァイくんに良い物をあげる」

「えっ、なーに」

「じゃあ、ちょっと目をつぶってみて」

「どうして目をつぶらないといけないの?」

「いいから、早くっ」

ヴァイは、そう言われると、無邪気に言われるままに目を閉じた。

ミシュタルは、目を閉じたことを確認すると、ニコニコしながら体の後ろに隠しておい

た、花の首飾りをヴァイの首に、そっとかけた。すると、それに反応するかのように、ヴ

ァイは直ぐに目を開いた。

「あっ、花の首飾りだ」

「こ、これ、ミシュタルちゃんが作ったの?」

「うんっ。」

「奇麗だね、ありがとう」

ヴァイは、かけてもらった首飾りを触りながらニコニコしている。

ミシュタルにとっては、その笑顔だけで満足だった。そして、ミシュタルは頬を赤らめフ

リフリの付いたスカートを気にするような大人らしい仕草を見せながら、ヴァイの隣に腰

を下ろした。

辺りの草や花、丘の上の大きな木、そして、幼い二人は夕焼けで紅い色に染まっていた。

ミシュタルは両手を胸の前で組むと、ヴァイの方を見つめて口を開いた。

「ねぇ、ヴァイくんって大きくなったら、ナイツになるんだよね」

「そうだよっ」

「ふーん、じゃあ・・・ヴァイくん、私のこと・・・好き?」

ヴァイは少し考える仕草をする。

「んーっ・・・好きだよ」

「本当に・・・」

「うんっ!レイリアもエレア姉さんも皆大好き」

「えーっ、そうじゃなくて・・・」

予想外の返答に呆気にとられるミシュタル。

「もう、そうゆう意味の好きじゃないのに、まったく」

「んっ?どうかしたの?」

ミシュタルは頬を膨らませ、ヴァイに聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

「鈍感!」

「ど、どんかん?」

ヴァイはミシュタルが求めている意味が全然分かっていないらしい。

ミシュタルは気を取り直し話し続ける。

「うんうん、何でもないわ。それでお願いがあるんです」

「な、なに、僕に出来る事なら」

「私、プリットになるじゃない、少しの間会えなくなるけど待っててほしいの・・・大き

くなったヴァイくんのパートナーに絶対になるから。そして、そして・・同じ時を生きる

の・・・。」

ミシュタルは、不安げにヴァイに向かい手を差し伸べた。

「いいですか?」

ヴァイは少し間の後、ミシュタルのうつむき顔見上げ手を取ると立ち上がた。

「別にいいけど・・・ほんとに僕なんかでいいの・・・」

ミシュタルは返答を全て終わるまもなく、ヴァイの手を取り喜びだした。

「本当に嬉しい、約束だよヴァイくん。私もヴァイ君にふさわしいプリットになれるよう

に頑張るから」

ミシュタルは恥ずかしそうに小指をの目の前に差し出した。

「指切りげんまんしょうかっ」

 ヴァイは差し出された小指に、自分の小指を絡ませた。

「指切りげんまん嘘付いたら針千本・・・」

日は西に沈みかけ、丘の上の木影に混じって二人の影が延びていた。

それから数日後、ミシュタルは育成カプセルの中にいた。

「ヴァイくん、私を必ず待っててね」

ミシュタルは願いを込め、目覚めるその時まで静かに眠りについた。

 

 

  ノウェル暦3012年・・・。

暗闇の中から、二人の男の声が聞こえてきた。

「・・・今なら、まだ間に合うぞ」

「いいんだ・・・あの時から決めていた事だから」

「お互い辛く悲しい運命をたどる事になるかもしれないんだぞ」

「それでも構わない、もう一度、彼女のあの笑顔が見らるのなら・・・運命を受け止める

覚悟はある」

「分かったよ、もう止めわしない。全てお前に任せるとしよう」

「・・・」

「いいか、これだけは覚えとけ。大きな力を持つという事は、それだけ大きな責任が伴な

うと言う事を・・・」

会話は静かな空間に、響き渡った。