当事務所のおける書類の保管について
当事務所にはお客様からお預かりした書類のほとんどがコピーとして残っています。
私たちがお客様から登記の依頼を受けるということは、私たちにとっては日常の
出来事でありますが、依頼主にしてみると一生の内に何度も経験しない事件です。
こういう事実が持つ重みを、ひしひしと感じることが私をして、えらく手間のかかる
作業に立ち向かわせるのです。
登記というのは法律行為の最後の仕上げという部分がありまして、実際はそこに至る
までの課程が大切なのです。
登記に提出する書類はいわば依頼者の完成させた作品のようなもので、私たちの仕
事はその作品を法務局に提出するお手伝いすることです。
そういう皆様の努力の集大成を何らかの形で残しておくことは、将来にわたって何か
の意味を持つことになるのではないかと考えています。
売却に関する不動産の権利関係に疑義が生じたとき、証拠となるような書類のコピー
を私たちが保管していることをお客様に知っていただければ、心強く思われるのでは
ないでしょうか。
世の中には過去を捨てて先へ先へと歩んで行く人と、いつも過去を振り返っている
人との2種類あるように思います。私は常に過去を振り返っているタイプの人間でし
て、事務所には過去の資料が山のように積まれています。
司法書士という仕事はお客様からたくさんの書類を預かり登記をしてお客様に返却
をするという書類の関所のような仕事をしています。
当事務所をご利用下さるお客様の中に書類を紛失してしまったからせめてコピーでも
持っていないかというようなお問い合わせを頂いたり、裁判の証拠資料にしたいから
「**契約書の写し」を保管していないかとのお問い合わせをいただいたりすることがあ
ります。そこでこちらはその当時のコピーを見てご安心いただくこともあります。
また相続登記の時に良くお問い合わせをいただくことがあるのですが、登記申請時
に使った固定資産評価証明書の写しや苦労して集めた被相続人の戸籍謄本や除籍
謄本を、法務局以外の役所に再度提出する予定が急きょ生じたために、とりあえず保
管してある戸籍謄本のコピーを印刷し、それと同一の戸籍謄本を郵便で申請して時間
を節約するというような用途で使用しておりました。
面白い利用事例として、次のようなことがありました。
お客様がご自宅の権利証を紛失され、登記の期日までに発見しなくてはならないので
すが間の悪いことに、同じような権利書が何冊も出てきてしまったことがありました。お
客様としては至急に権利書を選び出した上で銀行に提出しなければならないため当方
に再発行などができないのかという問い合わせを頂いたのですが、当方で権利書を以
前にお預かりした際に画像データとして取り込んでおいた表紙を印刷してお客様にお
渡しし、その権利書と同じものを探してくださいと依頼したことがありました。
コピーした表紙と全く同じ表紙を持った権利書が出てきましたのでそれを法務局に提出
し、全体としてつつがなく取引を終わることができた自慢話があります。
また、もっと面白い例として3カ所の不動産を相続登記しなくてはいけなかったのですが、
2カ所を終わったところで登記を留保していたところお客様が遺産分割協議書を紛失し
てしまいました。その後急に最後の物件を売却する話が決まりまして、ついては大至急
相続登記をしなくてはいけない。捺印をすべき相続人は全員揃っている。しかし遺産分
割協議は紛失している。「だれかコピーを持っていませんか?」と問い合わせしましたが
答えはノーです。そこでおもむろに遺産分割協議書のコピーを引っ張り出してきて、かつて
印鑑の押された遺産分割協議のコピーの上にさらに実印を捺印して「コピーした遺産分割
協議書に再度捺印をした遺産分割協議」を作成して、大至急相続登記を申請したことが
ありました。
こんなふざけた協議書で大丈夫かとの声もありましたが、何ごともなく登記は完了して、
皆様から感謝されたこともあります。
私たちの仕事では、お客様の大切な書類を当たり前の顔でお預かりして、法務局に
提出、しまたそれをお返しするということが平然と行なわれています。
結構大切な書類が多いものですから、お客様の所に還った書類が紛失して大騒ぎに
なると、だれかがコピーの一枚でもとっておけばよかったのに、と思うことがあります。
それなら私がとっておけばよい、と考えました。