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コラム1「世界を変えた男・トルネコ」
〜伝説の大商人、その一代記〜





トルネコというキャラクターがいる。

この男、ドラクエ4というゲームの中においては(正確には「導かれし者」
7人の中においては)もっとも影が薄いと言わざるを得ない。
特に、このゲームの花形である「戦闘」においてこの傾向が顕著で、
そこそこの攻撃力・防御力は持っているものの、会心を連発するアリーナや
防御力の塊のようなライアンには及ばず、戦闘中に呪文も使えないため、
よほどのファンの方でない限り、「時々妙なことをするので楽しい」という
目的以外で、戦闘で彼をメインで使うことは一般的に無いと言っても過言では
ない。
ガーデンブルグの地下牢に、迷わずに彼をぶち込んだ方も多かろう。(^^;

今回のコラムは、そんな方にこそ読んでいただきたいのである。

そして、再び、思いを馳せていただきたいのである。
彼がいかに、この世界において重要な役割を演じているか。
彼がいかに、この世界にドラスティックな変化をもたらしてきたか。

そんなわけで、トルネコが作り出したもの、そしてトルネコが変えてきた
ものを、「その世界の後世の歴史家がまとめた研究論文」風のテキストに
してみたものを、以下に掲載するのである。
妄想爆発であるな。(^^;





我々の知る限りの記録で、トルネコがどこで生まれ、どこで育ったかは、
残念ながら明らかでない。
妻ネネ、息子ポポロとともに北方の港町レイクナバに住み、武器屋の従業員と
して働いていた、というのが、彼に関する最も古い記録である。

この時から既に、トルネコはその商才を十二分に発揮し、武器屋の売り上げの
拡大に多大なる貢献をしていたとされている。

そして、家族、そして彼自身も、いつかは独立し、その商才を生かして、
自らの手で商売をしたいと思い始めていたようだ。



そんな彼に、重大な転機が訪れる。
レイクナバの宿屋の主人より、彼は「鉄の金庫」という魔法物品の話を聞いた
のである。

いかなモンスターの剛力にても開くことなく、自分に万が一の事があっても、
財産の損失を極力防ぐ、携帯用のセキュリティボックス。
それは、旅する商人にとって、文字どおり垂涎の品だったのである。

レイクナバの北の洞窟に安置されている事までは判明しているものの、洞窟
には幾多の罠が張り巡らされ、今まで誰も、それを持ち帰った者はなかった。

しかし、トルネコは、その勇気と知略をフルに発揮し、たった一人で洞窟の
最深部へ到達し、それを持ち帰ることに成功したのである。

一見小さな事のように思える話であるが、実は、「鉄の金庫」によって無茶が
効くようになったおかげで、それ以後のトルネコの行動範囲が飛躍的に拡大
したこと、そして何より、単独の冒険行に対してトルネコ本人が自信を持った
こと、この2点を考えれば、決して無視できないエピソードであると考える。



この冒険で自信を深めたトルネコは、武器の仕入れを兼ねて、南方への旅に
出かけた。

その道程で、彼は見知らぬ村に迷い込む。
その村の宿屋に泊まってみると、翌朝、その村は跡形もなく消えていた‥‥。

一見、作り話のようにも聞こえるエピソードであるが、これは紛れもなく
事実である。
そして、この事実の影に、トルネコのその後の人生を決定づける、彼の人生
最大の幸運が隠れていたのである。

この村で、トルネコはある人物と出会う。
その人物の名は、ドン・ガアデ。
世界的に著名な建築家である。
彼は、ある重要な使命を帯びて、ボンモールに向かっている「はず」であった
‥‥のだが、その旅の途中、この「消える村」に住んでいた女性に一目惚れ。
この地に永住する決意を固めていたのである。

そう、トルネコの「幸運」とは、「この時、このタイミングで」ドン・
ガアデに会えた事なのだ。

それがどう言う事なのか、次に訪れるボンモール王国で、トルネコ自身も
思い知る事になるのである。



ボンモール王国で、トルネコが知り得たこと。
それはまさに、国際政治の根幹を大きく揺るがす秘密であった。
ボンモール軍が、秘密裡に、隣国エンドールへの侵攻計画を進めていた
のである


時のボンモール王は、野心家で鳴らした男であった。
常日頃から、エンドールがどんどん繁栄していくのを横目で見つつ、貧しい
ボンモールの行く末を案じ‥‥そして、ついには、エンドールを武力により
併合するという、危険な計画を推進することとなる。

まず最初に計画されたのが、ボンモールとエンドールを結ぶ橋の修復工事で
あった。
かつては盛んであったボンモールとエンドールの間の交通であるが、当時は
橋が壊れていたため、渡し守を介したごくわずかな人の行き来以外は、完全に
途絶えていたのである。
そこで、ボンモール王は、「両国の通商を回復するため」と称し、大規模な
橋梁修復工事を施行しようとしたのである。
もちろん、それは言い訳に過ぎず、真の目的は、エンドールへの侵攻ルートの
確保である事は言うまでもないのだが。

そして、その工事を指揮するために、ボンモール王が呼び寄せた人物‥‥
それがドン・ガアデだったのである。

ドン・ガアデがボンモールに到着すれば、すぐさま工事が開始され、橋が
掛け替えられ‥‥そして、戦争が始まるであろう。
「消える村」にドン・ガアデが滞在していたおかげで、戦争が
起こらずに済んでいたのである。

そして、そのような微妙な状況下で、ただひとりドン・ガアデの正確な
滞在地を知っていた人物‥‥それがトルネコだったのである。



この時、彼としては、その情報を高額で王に売り、大儲けするという選択肢も
あっただろう。
だが、彼はそうしなかった。
その理由は‥‥これもまた幸運なのであるが、戦争を起こすまいと願う勢力が
彼に接触したのである。
その「勢力」とは、誰あろう、ボンモール王の実子、王太子リックであった。

リック王太子は、父王が侵攻しようとしていたエンドールの王女モニカと、
密かに情を通わせていたのである。

父王の性格を知り抜いていた王太子は、もしボンモール軍がエンドールに
侵攻すれば、恋人モニカを含むエンドール王家の人間を根絶やしにしかねない
と考えた。
それを防ぐためには、戦争を食い止めるしかない。
現在の状況は一時しのぎでしかない。根本的に戦争の根を断つには‥‥?

リックは、ここで、まさにウルトラCとも呼べる方策を思いついた。

彼がモニカと結婚すればいい。

そうすれば、彼らの子供はボンモールとエンドール両王家の血を引くことに
なる。それが男児ならば、両王国の王を兼ねることとなる可能性が高い。
父王にとってみれば、自分の孫がエンドールの王となるのである。今、犠牲を
払って侵攻する意味はない。
リックにとっても、モニカに対する己の愛情に矛盾しない策である。
まさにウルトラCである。

しかし、この計画には、大きな問題点があった。
この策を、父王より先に、エンドール王家に知らせる必要があったのだ。
正確には、この結婚は、エンドール側から申し出られる必要があった
のである。

もし、先にこの計画が父王に知れ、ボンモール側からリックとモニカの結婚を
迫ることがあれば、最悪の場合、エンドール王は、それをボンモール側からの
恫喝と受け止めかねない。そして、その場合、話がこじれれば、両者の戦争に
まで発展する可能性も否定はできないのだ。

それを防ぐためにも、最低でもエンドール側への根回しは必要だ。できれば
エンドール側からの申し出、という形が理想である。

そのためには、エンドール王と早急に連絡を取る必要があった。
しかし、前述の通り、エンドールとの交通は遮断された状態にある。
連絡を取るためには、ドン・ガアデを探し出し、ボンモールとエンドールを
結ぶ橋を修理せねばならない。
次いで、橋が直ったら、即エンドールへ連絡を取り、結婚に関してエンドール
側の了解を取らねばならない。

そして、最も重要なのは、以上の計画を、父王が軍をエンドールに
差し向ける前に全て完了させなければならない
、ということである。
父王がエンドールに軍を派遣する前に、戦争が起きる前に、全てのことを
成さなければならないのだ。

無理難題とも思えるこの計画・・・しかし、リック王太子はこの時、思わぬ
協力者を得ることに成功した。それがトルネコだったのである。



当時、トルネコは、ボンモール軍に大量の防具を納入し、事実上、軍の御用
商人と言ってもいい位置に食い込んでいる。
これは、開戦を睨んだ軍側からの要請だったと言われているが、トルネコ側
からの売り込みがあったか否かに関しては明らかではない。

ともかく、その時、トルネコは、防具の仕入れルートを開拓するため、
エンドールに渡る事を望んでいた。また、エンドールの一等地に店を構える
老人が、高齢のため店舗を競売にかけるらしい、という噂を聞き、その物件の
下見をしたい、という望みもあった。

このトルネコの思惑と、父王に知られずにエンドールに赴く人間が欲しい
リック王太子の思惑がぴたりと一致した。二人は手を組んだのである。

ここからのトルネコの動きは、まさに疾風迅雷の如きであった。
まず、ドン・ガアデの滞在している村が、妖力を持ったキツネの作り上げた
幻覚である事を突き止めると、ボンモールに取って返し、知人の飼っていた
フォックスハウンド(キツネ猟犬)を使ってキツネを駆逐、ドン・ガアデを
ボンモールへと連れ帰り、工事を開始させたのである(この時、ボンモールの
牢に捕らえられていた猟犬の飼い主を、トルネコが脱獄させた、という噂が
あるが、真偽のほどは定かではない)。

これに慌てたのがボンモール王。さっそくエンドール遠征軍を編制、侵攻
準備に入ったのである。
しかし、ドン・ガアデの到着が全く予期せぬタイミングであったため、準備
にはワンテンポの遅れが生じた。
そして、その遅れを突き‥‥リック王太子直筆の親書を携え、トルネコは
完成したばかりの橋を渡り、エンドールへと赴いたのだ。



王太子リックの目論見は、大成功に終わる。

親書の内容‥‥すなわち、ボンモール軍によるエンドール侵攻の準備が進んで
いる事、それを防ぐためにも、自分とモニカ王女との結婚を許して欲しいと
王太子自らが望んでいること‥‥それを知り、エンドール王は仰天した。

が、さすがに世界最大の王国の上に立つ者である。彼は、国際情勢を鑑み、
また、リックとモニカの情を汲み‥‥結婚を許した。のみならず、彼自ら、
ボンモール王にその旨の許しを願う書状をしたため、トルネコに託したので
ある。

時はまさに開戦前夜。
まさにギリギリのタイミングで、トルネコはボンモールに帰還した。

エンドール王の親書を読み、ボンモール王は「これでわしの孫がエンドール
王だ!」と叫んだと言われている。

まさに理想的な形で、戦争は回避されたのだ。
戦争に突入していれば、両国とも大きなダメージを負い、その復興には長い
年月を要すると思われただけに、この出来事は、まさにその後の両国の運命を
決定づけた、重要な事件であると言えよう。

そして、それをたった一人で成し遂げたトルネコへ、世界の耳目が集まること
となるのだ。



この功績が認められ、トルネコはエンドール王家の正式な御用商人となる。
そして、それと同時に、トルネコは件の店舗を入手、レイクナバから家族を
呼び寄せ、営業を開始した。

エンドールの店舗で市民への小売業を営みつつ、エンドール・ボンモール
両王家の御用達として、武器や防具を納入する‥‥。

大口外商を含めた世界初の複合業態。
世界初の国際的な武器販売ネットワーク。
それこそが、トルネコを世界一の豪商へと押し上げる原動力となった、彼
独自のシステムであり、彼が世界にもたらした「変革」のひとつだったので
ある。



上記の変革を「産業構造の変革」とするならば、もうひとつは「交通の変革」
と言えるだろう。
かつて、何人もの富豪や建築家が挑み、果たせなかった難工事‥‥エンドール
の東から川底を通り、ブランカの西へと抜ける地下隧道の建設に、トルネコは
蓄えた財力を注ぎ込んだのである。

このトンネルの必要性・重要性は、早くから指摘されていた。
これが開通すれば、今まで海運に頼っていたブランカ方面との通商が、陸路で
可能となる。
それは、東西の人的交流の拡大と、貨物の流通コストの大幅な低減をもたらす
であろうことは、容易に予測できたのである。

しかし、上述のごとく、幾多の人々がこの建設に挑むも、湧水の激しい脆弱な
地盤に苦しめられ、度重なる工期の延長で財政的に工事の継続が困難になり、
撤退する、というパターンを繰り返したのである。

しかし、そこに、トルネコが資財を投入したのである。
彼は、このトンネル建設に、本業で得た資金を潤沢に注ぎ込み、物資やマン
パワーを優先的にトンネル建設に回した。
その財力、物資、そして新たに開発されたトンネル掘削技術が実を結び、
程なく、エンドールとブランカは一本のトンネルで結ばれたのである。

予想通り、この経済効果は凄まじかった。
ブランカとエンドールの人的交流や通商が拡大したのは言うまでもなく、
さらに遠方のアネイル、コナンベリーといった都市とエンドールとの交易も
盛んに行われるようになったのである。
無論、それまでも、コナンベリー〜エンドール間の海路での交通はあった
わけであるが、渡航時間が天候に大きく左右されるというデメリットのない
(途中に砂漠があるため、決して楽な道とは言えないが)陸路が確保された
ことにより、より安定した通行・輸送が可能になった。

その結果、予想された通り、まず、互いの特産品が安く市場に並ぶように
なった。いわゆる「価格破壊」である。
もちろん、その最初の仕掛け人はトルネコである。
人々は、トルネコの店に並ぶ品のあまりの安さに、目を疑ったのだ。
トンネルの開通時期を正確に知り、流通改革に先手を打てる立場であった
トルネコだからこそ、人々を仰天させる大胆な値下げが可能だったのだ。
これにより、トルネコが一層の富を手にしたことは特筆すべきである。



余談ではあるが、このトンネルの開通により、意外な人々が、大きな恩恵を
受けることとなった。
温泉街アネイルの人々である。

コナンベリー回りの船便に加え、大都市エンドールと陸続きで結ばれた事に
より、訪問客が飛躍的に増加したのである。
収入が増え、また、世界有数の観光地として、ますます名声が高まる。

もしかすると、アネイルの人々は、トンネル開通に伴い、トルネコと同等、
あるいはそれ以上の恩恵を受けたかもしれない。



その後、トルネコは、店の経営を妻ネネに任せ、突如隠遁。武器屋としての
己の夢を賭け、究極の武器「天空の剣」を探す旅に出た。

港町コナンベリーまで陸路で、そしてコナンベリーで専用船を建造し(この
船そのものに関しても、当時最高の技術の結晶であると、後世高く評価されて
いる)、海路で旅を続けようとするトルネコであったが、ここでトラブルが
発生した。
長らくコナンベリー湾の安全を守っていた大灯台にモンスターが巣食い、
その明かりを、海を荒らす「邪悪な炎」に変えたのである。
結果、コナンベリー発着の航路は完全に長期運休。街の経済にも大打撃を
与える事となった。

トルネコは、その元を断つべく、無謀にも単独で大灯台に乗り込むが、そこに
待ち受けるモンスターの手強さに苦戦を強いられた。



ここからは、よく知られた話である。

コナンベリーから、彼を追ってきた一団があったのだ。
後に『地獄の帝王』エスタークや『黒衣の魔王』デスピサロを倒す『勇者』、
そして『進化の秘法』の産みの親・エドガンの娘、マーニャとミネアである。

トルネコは、彼らとの出逢いに運命的な物を感じ、大灯台のモンスターを
駆逐してもらう代わりに、船の提供と自らの同行を提案。
トルネコの影響力と経済力を考えれば、これは勇者側にとっても悪い話では
なく、この提案を快諾した。
トルネコは、心強いボディーガードを。また勇者は、またとない強力な
スポンサーを得る事になったのである。

かくして、大灯台のモンスターは一掃され、大灯台そのものもまた、「聖なる
種火」を灯し直す事により、本来の役割を取り戻した。
トルネコの船も無事に出港し、まだ見ぬ新天地を目指すこととなったので
ある‥‥。



トルネコ自身に関する記録は、これで終わりである。
ここからの彼の歴史は、また勇者がたどった歴史でもある。
それはまた、別の機会に語ることとしよう。

最後にひとつ付け加えるならば、トルネコ隠遁後、店を引き継いだネネに
ついてである。
彼女は、店を改造し、現金そのものを商品として預かるシステム‥‥すなわち
現在の「銀行」に近い店舗を開設した。
まさに「究極の集金システム」を具現化した店舗‥‥これにより、トルネコの
店はますます発展するに違いない。
トルネコ自身も去ることながら、妻ネネの商才もまた、高く誉め称えられる
べき物であると考えるのである。





いかがであろうか。
ちなみに、余談だが、ファミコン版では、ネネの店は「預かり所」であり、
アイテムと金の両方を預かってくれたのであるが、プレステ版では「魔法の
袋」が出来たので、金しか預かってくれないのである。ちょっとがっかり。



というわけで、かなりに妄想爆発テキストであるが、史実(笑)とそんなに
違ってないし、いいんじゃないかと思われるのである。

つーか、みんなもっとトルネコを尊敬すれ!と叫びたい今日この頃で
あった。(^^;



(おしまい)
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