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コラム6
「ねじ曲げられた『遺伝子の道』」
〜「進化の秘法」を考える〜





今回のコラムは、「進化の秘法」の話である。



ここに来られるようなドラクエ4ファンの皆様には、改めての説明など必要
ないかも知れないが、念のため、もう一度復習してみよう。

「進化の秘法」。
それは、ドラクエ4の物語を構成するいくつかの要素(ファクター)の中でも
もっとも重要な部類に入るキーワードである。

「生物の進化の道筋を歪め、あり得るべからざる生物を産み出す技術」
劇中では、そう説明される。

かつて、「地獄の帝王」エスタークが、自らの肉体を強化するため創り出した
秘法。
しかしそれは、エスターク自身が、現在アッテムトと呼ばれる場所に封印
された時、同時に闇に葬られたはずであった‥‥。

だが。
偶然、それを「再発見」した者がいた。
マーニャとミネアの父、偉大なる錬金術師エドガンである。

エドガンは、自らが発見した「進化の秘法」の恐ろしさに震撼し、これを
「人類を誤った方向に導く物」として、封印しようとした。

当時、エドガンには、二人の弟子がいた。
オーリン、そしてバルザック。
師に同調し、「進化の秘法」は封印されるべきと考えたオーリンに対し、
バルザックは、「進化の秘法」こそが人類を更なる発展にいざなう物である、
として、師や兄弟子と対立。
ついには、封印されつつあった「進化の秘法」を我が物にしようと企み、
師エドガンを殺害、オーリンに深手を負わせ、「進化の秘法」の資料を持って
逃走したのである。

この時から、既に魔族と内通していたのか、はたまた「進化の秘法」を手に
した後の事なのかは分からないが、いずれにせよ、次に人々の前にバルザック
が現われたのは、魔族の王デスピサロの配下、「四本の腕を持つ四つ足の
獅子」となったキングレオ王子、その部下としてであった。

彼自身、「進化の秘法」を用いて肉体を強化して魔物となったバルザックは、
キングレオ城でマーニャ・ミネア・オーリンの3人と戦って破れるも、魔族軍
の前線基地となったサントハイム城に移封されて後、さらに肉体を強化、勇者
率いる精鋭部隊と戦っている。
結果はご存じの通り、勇者たちの勝利であった。マーニャとミネアは仇討ちの
本懐を遂げ、アリーナ、クリフト、ブライは、自らの城を奪還したのである。

そしてこの時、デスピサロは、バルザックの敗因を「『進化の秘法』に
費やされた魔力の不足」と分析、魔力増幅器である「黄金の腕輪」を「進化の
秘法」と組み合わせる事で、それを更に完璧な物としたのである。



ところで。
具体的に、「進化の秘法」とは、どのようなものなのだろうか?
実は俺は、1990年、ファミコン版のドラクエ4を最初にプレイした時から、
ずっと、疑問に思っていたのである。

疑問に思い、疑問に思い、疑問に思い続けた12年間。
が、今、俺自身の中に、それを完璧に説明しうる答えが用意された。
今回は、それを、コラムにしてみようと思ったのである。

もっとも、これはあくまで「俺自身が信じている答え」であり、もちろん
「公式に正しい答え」ではない。
しかし、それでも、俺の答えは充分説得力があると俺自身は思っているし、
もしかしたら、ドラクエ4の製作スタッフの皆様も、似たような事を考えて
いらっしゃるかもしれないのである。
例えそうでなくとも、この辺は各プレイヤーの解釈に任されている部分。
固い事言うなや(苦笑)。



「進化の秘法」の本質は、「進化の道筋を歪める」という、この言葉に
集約する事ができる。
故に、この言葉を解き明かす事こそ、「進化の秘法」の謎を解き明かす事に
他ならないのである。

「進化の道筋」‥‥それは、我々霊長類ヒト科ホモ・サピエンスを含め、
あらゆる生物が通ってきた道である。
単なる、原形質の塊に過ぎなかった「もの」が、やがて遺伝子を封じ込める
「核膜」を産み出し、酸素をエネルギー源に膨大なエネルギーを産み出す
「ミトコンドリア」を取り込み、空気中での生活に適応するための強固な
皮膚を、水中の浮力に頼ることなく移動できる強靭な骨格を、そして、道具を
使う手を、知性を司り、文明を産み出す脳を‥‥
我々は、気の遠くなるような長い時間をかけて、それらを獲得してきたので
ある。

それらは全て、我々にとっての「進化」である。
そして、「進化の道筋を歪める」ということは、それらの色々な能力を獲得
するプロセスに介入し、何らかの変化をもたらす、という事に相違あるまい。



では、さらに具体的に、その「介入」とは、一体どのようなことであるのか、
それを考えてみる事とするのだが、そのために、もうひとつ、キーワードを
導入しよう。

「遺伝子」

生物学者ワトソンとクリックにより、1953年にその構造を解き明かされた、
生物の形質を後の世代に伝える物質「遺伝子」。
その本態は、「核酸」と「糖」、そして「塩基」と呼ばれる分子がまとまって
ひとつのユニットとなり、それが2つ、塩基同士で結合したものが、螺旋を
描きながらさらに縦方向に積み重なった、デオキシリボ核酸(DNA)と呼ばれる
巨大分子である(エイズウイルスやC型肝炎ウイルスなんかはRNAを遺伝子と
するが、そーゆーのは今回除外して考える(^^;)。
そして、その中央部に位置する「塩基」‥‥アデニン、グアニン、シトシン、
チミンの4種の、その並び方が、そのまま「どのアミノ酸をどの順番で結合
させるか」、つまり「どんなタンパク質を作るか」の「設計図」となっている
のである。
この「タンパク質の設計図」=DNAこそが、生物がその体の構成要素、
つまり自らの「形質」を後世に伝えるための「からくり」なのである。


で、だ。
我々は、長い進化の過程で、自らの形質を少しずつ変化させ、ようやく、
この「種」‥‥霊長類ヒト科ホモ・サピエンスまで、たどりついた。
それはすなわち、我々がこの「遺伝子」を、少しずつ変化させていった、と
いうことに他ならない。
つまり、この「遺伝子を変化させる事」、これが「進化」の本質なので
ある。

さぁ、いいところまで来たぞ。

「進化の秘法」とは「進化のプロセスに介入する事」である、と、先ほど俺は
論じた。
そして、「進化」とはすなわち、「遺伝子を変化させる事」である。
この二つの議論を重ね合わせると、答えは見えてくる。

「進化の秘法」とは、人為的な遺伝子のリライト(書き換え)である。

これこそが、俺の結論である。

何らかの方法で、体を構成する細胞の遺伝子を書き換え、人間には無い形質を
獲得させる。
それこそが「進化の秘法」であると、俺は思うのだ。



そんなことが、実際に可能なのか。

DNAの書き換え‥‥それは、実際には「DNAの分解→再構成」というプロセスで
行われると思われる。
体内において、DNAが分解される時には「ヌクレアーゼ」と呼ばれる一連の
酵素が、合成される時には「DNAポリメラーゼ」「DNAリガーゼ」と呼ばれる
一連の酵素が働く。
そして、生体内のエネルギー蓄積物質・アデノシン三リン酸(ATP)を分解して
反応のためのエネルギーを取り出しながら、材料としてその辺にある塩基や
糖、核酸を用いて、DNAを合成したり、あるいは分解したりするわけである。

ということは、乱暴な言い方をすれば、材料とエネルギー、そして酵素
(あるいはそれに代わる触媒)があれば、DNAを分解・合成する事は可能で
あるということになる。
さらに、もしDNA合成の際、その塩基配列を自由に決定する事が出来るとした
ならば‥‥
それはつまり「生物の形質を自由に決定できる」事に他ならない。

論議が、いよいよ核心に近づいてきたようだ。

そう、「進化の秘法」とは、体細胞内のDNAを一度分解し、任意の塩基
配列に再合成すること

材料と酵素はある。エネルギーは恐らく「魔力」であろう。
そうに違いない、と俺は思うのだ。



ここで、ちょっと考えてみよう。

もし、仮にそうであるとするなら、全身の細胞の遺伝子を一気に書き換える
には、相当に高いエネルギーが必要である。
言い替えれば、非常に大量の魔力を必要とする、ということだ。

バルザックの用いた、「黄金の腕輪」無しの「進化の秘法」が不完全であった
のは、すなわち、彼の魔力だけでは、遺伝子を全て書き換えられるだけの
エネルギーは賄い切れなかった、ということであろう。
だから、魔力増幅器が‥‥「黄金の腕輪」が必要だったのであろう。

というわけで、進化の秘法とは最先端のバイオテクノロジーなのであった、
という話であった。いや本当かどうかは分からないけどね。(^^;



この話をするのは、というより、俺がこの結論をうちのサイトで述べるのは、
実は、初めてのことではない。
もし、貴方が仮に、俺の書いた文章を「全て」読んで下さっていたとした
ならば、既に貴方は、どこかで、この話を読んでいるはずなのだ。

あまり引っ張るのも何だから、とっととばらしてしまおう。
当サイトに掲載している小説「私の中の炎」。
その第3話に、マーニャさんとミネアさんが、ディルちゃん(うちの
勇者ちゃん)に、自分たちが旅に出た理由を話すくだりがある。
その中で、「進化の秘法」について、彼女たちは、こう語っているのだ。

  「お父様は、偶然見つけてしまったの。ものすごく強い魔力を人間の
   肉体そのものに直接作用させれば、人間でない生き物、人間を
   超えた生き物を作り出せる、ってことを。そしてその方法を」

  「父さんは、魔力で体細胞の遺伝子を一気に書き換える、とか何とか
   言ってたけど‥‥やっぱ、あたしには、何の事だかさっぱり
   分かんないや」

  「お父様は、その方法を‥‥<進化の秘法>って呼んでいたわ」


というわけで、既に、俺の小説の中では、この結論が設定として活かされて
いたのである。
「自分の仮説を世に広める」という目的において、実に効果的かつ姑息な
方法と言えるであろう。(^^;



ところで。
本当はこれは秘密にしておいた方がいいのかもしれないのだが、実は、この
結論には、元ネタがあるのである。(爆)

1999年に放映されたアニメ「ベターマン」
俺が大好きこの上ない「勇者王ガオガイガー」と同一の世界での物語という
事で、当時住んでいた北海道では放映されなかったにもかかわらず、友人に
録画ビデオを送ってもらい、しっかりチェックしたのである。

そして、このアニメにおいて、倒すべき最終ボスの地位にいたのが、まさに
ここで述べた「進化の秘法」と同様に、莫大なエネルギーを用いて人間の
遺伝子を書き換えた結果誕生した、最強にして最悪の生物‥‥
ラテン語で「癌」を意味する「カンケル」と名付けられた生物だったので
ある。

次世代の人間の可能性を追求するために行われた「遺伝子書き換え実験」‥‥
しかしそれが、人間を滅ぼしうる恐るべき生物を産み出してしまったのだ。
もちろん、ドラクエ4とは大幅に異なるシチュエーションであるとはいえ、
いずれも「人間の遺伝子を弄んだ者」という点では共通していると思うのだが
いかがか。



最後に。
我々人間の科学は、もう、ゲーム中の「進化の秘法」を再現する一歩手前まで
到達している。
この技術が、現実のバルザックを、デスピサロを、そして現実のカンケルを
産まぬように、俺は祈っているのである。

(おしまい)
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