検索結果詳細
『蜻蛉(大島本)』
「いとおぼつかなさに、まどろまれはべらぬけにや、今宵は夢にだにうちとけても見えず。物に襲はれつつ、心地も例ならずうたてはべるを。なほいと恐ろしく、ものへ渡らせたまはむことは近くなれど、そのほど、ここに迎へたてまつりてむ。今日は雨降りはべりぬべければ」
などあり。昨夜の御返りをも開けて見て、右近いみじう泣く。
「さればよ。心細きことは聞こえたまひけり。我に、などかいささかのたまふことのなかりけむ。幼かりしほどより、つゆ心置かれたてまつることなく、塵ばかり隔てなくてならひたるに、今は限りの道にしも、我を後らかし、けしきをだに見せたまはざりけるがつらきこと」
9/462
10/462
11/462
第一章 浮舟の物語 浮舟失踪後の人びとの動転
[第一段 宇治の浮舟失踪]
[Index]