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 『宿木(大島本)

 かくは聞こえさせながらも、かのいにしへの悲しさは、まだいはけなくもはべりけるほどにて、いとさしもしまぬにやはべりけむ。なほ、この近き夢こそ、覚ますべき方なく思ひたまへらるるは、同じこと、世の常なき悲しびなれど、罪深き方はまさりてはべるにやと、それさへなむ心憂くはべる」
 とて、泣きたまへるほど、いと心深げなり。
 昔の人を、いとしも思ひきこえざらむ人だに、この人の思ひたまへるけしきを見むには、すずろにただにもあるまじきを、まして、我もものを心細く思ひ乱れたまふにつけては、いとど常よりも、面影に恋しく悲しく思ひきこえたまふ心なれば、今すこしもよほされて、ものもえ聞こえたまはず、ためらひかねたまへるけはひを、かたみにいとあはれと思ひ交はしたまふ。

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  第二章 中君の物語 中君の不安な思いと薫の同情  [第七段 薫、源氏の死を語り、亡き大君を追憶]

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