検索結果詳細


 『柏木(尊経閣文庫本)

 「夢のやうに思ひたまへ乱るる心惑ひに、かう昔おぼえたる御幸のかしこまりをも、え御覧ぜられぬらうがはしさは、ことさらに参りはべりてなむ」
 と聞こえたまふ。御送りに人びと参らせたまふ。
 「世の中の、今日か明日かにおぼえはべりしほどに、また知る人もなくて、漂はむことの、あはれに避りがたうおぼえはべしかば、御本意にはあらざりけめど、かく聞こえつけて、年ごろは心やすく思ひたまへつるを、もしも生きとまりはべらば、さま異に変りて、人しげき住まひはつきなかるべきを、さるべき山里などにかけ離れたらむありさまも、またさすがに心細かるべくや。さまに従ひて、なほ、思し放つまじく」

 143/355 144/355 145/355

  第二章 女三の宮の物語 女三の宮の出家  [第四段 朱雀院、夜明け方に山へ帰る]

  [Index]