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『総角(大島本)』
暗きほどにと、急ぎ帰りたまふ。道のほども、帰るさはいとはるけく思されて、心安くもえ行き通はざらむことの、かねていと苦しきを、「夜をや隔てむ」と思ひ悩みたまふなめり。まだ人騒がしからぬ朝のほどにおはし着きぬ。廊に御車寄せて降りたまふ。異やうなる女車のさまして隠ろへ入りたまふに、皆笑ひたまひて、
「おろかならぬ宮仕への御心ざしとなむ思ひたまふる」
と申したまふ。しるべのをこがましさも、いと妬くて、愁へもきこえたまはず。
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第三章 中の君の物語 中の君と匂宮との結婚
[第五段 薫、再び実事なく夜を明かす]
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