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 『紫式部日記(黒川本)

 かからぬ年だに御覧の日の童女の心地どもは、おろかならざるものを、ましていかならむなど、心もとなくゆかしきに、歩み並びつつ出で来たるは、あいなく胸つぶれて、いとほしくこそあれ。さるは、とりわきて深う心寄すべきあたりもなしかし。われもわれもと、さばかり人の思ひてさし出でたることなればにや、目移りつつ、劣りまさりけざやかにも見え分かず。今めかしき人の目にこそ、ふともののけぢめも見とるべかめれ。ただかく曇りなき昼中に、扇もはかばかしくも持たせず、そこらの君達のたちまじりたるに、さてもありぬべき身のほど、心もちゐといひながら、人に劣らじとあらそふ心地も、いかに臆すらむと、あいなくかたはらいたきぞ、かたくなしきや。

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  第一部 敦成親王誕生記  第二章 寛弘五年(一〇〇八)冬の記  【一七 二十二日卯の日、五節の舞姫、童女御覧】

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