検索結果詳細


 『明石(大島本)

 君は、難波の方に渡りて御祓へしたまひて、住吉にも、平らかにて、いろいろの願果たし申すべきよし、御使して申させたまふ。にはかに所狭うて、みづからはこのたびえ詣でたまはず、ことなる御逍遥などなくて、急ぎ入りたまひぬ。
 二条院におはしまし着きて、都の人も、御供の人も、の心地して行き合ひ、喜び泣きどもゆゆしきまで立ち騷ぎたり。
 女君も、かひなきものに思し捨てつる命、うれしう思さるらむかし。いとうつくしげにねびととのほりて、御もの思ひのほどに、所狭かりし御髪のすこしへがれたるしも、いみじうめでたきを、「今はかくて見るべきぞかし」と、御心落ちゐるにつけては、また、かの飽かず別れし人の思へりしさま、心苦しう思しやらる。なほ世とともに、かかる方にて御心の暇ぞなきや。

 300/331 301/331 302/331

  第五章 光る源氏の物語 帰京と政界復帰の物語  [第一段 難波の御祓い]

  [Index]