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『紫式部日記(黒川本)』
宮もしのびさせたまひしかど、殿も内裏もけしきを知らせたまひて、御書どもをめでたう書かせたまひてぞ、殿はたてまつらせたまふ。まことにかう読ませたまひなどすること、はた、かのもの言ひの内侍は、え聞かざるべし。知りたらば、いかに誹りはべらむものと、すべて世の中ことわざしげく憂きものにはべりけり。
【五 求道への思いと逡巡】
いかに、今は言忌みしはべらじ。人、と言ふとも、かく言ふとも、ただ阿弥陀仏にたゆみなく、経をならひはべらむ。世の厭はしきことは、すべてつゆばかり心もとまらずなりにてはべれば、聖にならむに、懈怠すべうもはべらず。ただひたみちに背きても、雲に乗らぬほどのたゆたふべきやうなむはべるべかなる。それに、やすらひはべるなり。年もはた、よきほどになりもてまかる。いたうこれより老いほれて、はた目暗うて経読まず、心もいとどたゆさまさりはべらむものを、心深き人まねのやうにはべれど、今はただ、かかるかたのことをぞ思ひたまふる。それ、罪深き人は、またかならずしもかなひはべらじ。前の世知らるることのみ多うはべれば、よろづにつけてぞ悲しくはべる。
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第二部 宮仕女房批評記
第二章 わが身と心を自省
【五 求道への思いと逡巡】
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