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 『紫式部日記(黒川本)

 御文にえ書き続けはべらぬことを、良きも悪しきも、世にあること、身の上の憂へにても、残らず聞こえさせおかまほしうはべるぞかし。けしからぬ人を思ひ、聞こえさすとても、かかるべいことやははべる。されど、つれづれにおはしますらむ、またつれづれの心を御覧ぜよ。また、おぼさむことの、いとかうやくなしごと多からずとも、書かせたまへ。見たまへむ。夢にても散りはべらばいといみじからむ。耳も多くぞはべる。このころ反古もみな破り焼き失ひ、雛などの屋づくりに、この春しはべりにし後、人の文もはべらず、紙にはわざと書かじと思ひはべるぞ、いとやつれたる。こと悪ろきかたにははべらず、ことさらによ。御覧じては疾うたまはらむ。え読みはべらぬ所々、文字落としぞはべらむ。それはなにかは、御覧じも漏らさせたまへかし。かく世の人ごとの上を思ひ思ひ、果てにとぢめはべれば、身を思ひ捨てぬ心の、さも深うはべるべきかな。何せむとにかはべらむ。
 第三部 宮仕生活備忘記
 第一章 寛弘五年五月二十二日、土御門殿邸の法華三十講

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  第三部 宮仕生活備忘記  第二章 わが身と心を自省  【六 宮仕女房批評記の結び】

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