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 『柏木(尊経閣文庫本)

 「今さらに、この御ことよ、かけても聞こえじ。この世はかうはかなくて過ぎぬるを、長き世のほだしにもこそと思ふなむ、いとほしき。心苦しき御ことを、平らかにとだにいかで聞き置いたてまつらむ。見し夢を心一つに思ひ合はせて、また語る人もなきが、いみじういぶせくもあるかな」
 など、取り集め思ひしみたまへるさまの深きを、かつはいとうたて恐ろしう思へど、あはれはた、え忍ばず、この人もいみじう泣く。
 紙燭召して、御返り見たまへば、御手もなほいとはかなげに、をかしきほどに書いたまひて、

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  第一章 柏木の物語 女三の宮、薫を出産  [第四段 女三の宮の返歌を見る]

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