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 『早蕨(大島本)

 [第一段 宇治の新春、山の阿闍梨から山草が届く]
 薮し分かねば、春の光を見たまふにつけても、「いかでかくながらへにける月日ならむ」と、のやうにのみおぼえたまふ。
 行き交ふ時々にしたがひ、花鳥の色をも音をも、同じ心に起き臥し見つつ、はかなきことをも、本末をとりて言ひ交はし、心細き世の憂さもつらさも、うち語らひ合はせきこえしにこそ、慰む方もありしか、をかしきこと、あはれなるふしをも、聞き知る人もなきままに、よろづかきくらし、心一つをくだきて、宮のおはしまさずなりにし悲しさよりも、ややうちまさりて恋しくわびしきに、いかにせむと、明け暮るるも知らず惑はれたまへど、世にとまるべきほどは、限りあるわざなりければ、死なれぬもあさまし。

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  第一章 中君の物語 匂宮との結婚を前にした宇治での生活  [第一段 宇治の新春、山の阿闍梨から山草が届く]

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