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 『総角(大島本)

 直面にはあらねど、はひ寄りつつ見たてまつりたまへば、いと苦しく恥づかしけれど、「かかるべき契りこそはありけめ」と思して、こよなうのどかにうしろやすき御心を、かの片つ方の人に見比べたてまつりたまへば、あはれとも思ひ知られにたり。
 「むなしくなりなむ後の思ひ出でにも、心ごはく、思ひ隈なからじ」とつつみたまひて、はしたなくもえおし放ちたまはず。夜もすがら、人をそそのかして、御湯など参らせたてまつりたまへど、つゆばかり参るけしきもなし。「いみじのわざや。いかにしてかは、かけとどむべき」と、言はむかたなく思ひゐたまへり。

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  第六章 大君の物語 大君の病気と薫の看護  [第六段 薫、大君を看護する]

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