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 『総角(大島本)

 中納言の君は、さりとも、いとかかることあらじ、夢か、と思して、大殿油を近うかかげて見たてまつりたまふに、隠したまふ顔も、ただ寝たまへるやうにて、変はりたまへるところもなく、うつくしげにてうち臥したまへるを、「かくながら、虫の骸のやうにても見るわざならましかば」と、思ひ惑はる。
 今はの事どもするに、御髪をかきやるに、さとうち匂ひたる、ただありしながらの匂ひに、なつかしう香ばしきも、
 「ありがたう、何ごとにてこの人を、すこしもなのめなりしと思ひさまさむ。まことに世の中を思ひ捨て果つるしるべならば、恐ろしげに憂きことの、悲しさも冷めぬべきふしをだに見つけさせたまへ」

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  第七章 大君の物語 大君の死と薫の悲嘆  [第二段 大君の火葬と薫の忌籠もり]

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