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 『若菜上(明融臨模本)

 御方は、南の御殿におはするを、「かかる御消息なむある」とありければ、忍びて渡りたまへり。重々しく身をもてなして、おぼろけならでは、通ひあひたまふこともかたきを、「あはれなることなむ」と聞きて、おぼつかなければ、うち忍びてものしたまへるに、いといみじく悲しげなるけしきにてゐたまへり。
 火近く取り寄せて、この文を見たまふに、げにせきとめむかたぞなかりける。よその人は、何とも目とどむまじきことの、まづ、昔来し方のこと思ひ出で、恋しと思ひわたりたまふ心には、「あひ見で過ぎ果てぬるにこそは」と、見たまふに、いみじくいふかひなし。

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  第十一章 明石の物語 入道の手紙  [第五段 明石御方、手紙を見る]

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