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『紅葉賀(大島本)』
入り方の日かげ、さやかにさしたるに、楽の声まさり、もののおもしろきほどに、同じ舞の足踏み、おももち、世に見えぬさまなり。詠などしたまへるは、「これや、仏の御迦陵頻伽の声ならむ」と聞こゆ。おもしろくあはれなるに、帝、涙を拭ひたまひ、上達部、親王たちも、みな泣きたまひぬ。詠はてて、袖うちなほしたまへるに、待ちとりたる楽のにぎははしきに、顔の色あひまさりて、常よりも光ると見えたまふ。
春宮の女御、かくめでたきにつけても、ただならず思して、「神など、空にめでつべき容貌かな。うたてゆゆし」とのたまふを、若き女房などは、心憂しと耳とどめけり。藤壺は、「おほけなき心のなからましかば、ましてめでたく見えまし」と思すに、夢の心地なむしたまひける。
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第一章 藤壺の物語 源氏、藤壺の御前で青海波を舞う
[第一段 御前の試楽]
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