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 『親子そば三人客』 従吾所好

「寒いツて何うも、」
「妙なお天気でございます。」
「然やうさ、」といひかけて、火鉢の縁に頬杖した、客はフト心付いたやうに、自分と斜向〈はすかひ〉に、其は入口の、一間破れた障子を背〈せな〉。上框に腰をかけた、左足を土間一杯に踏伸し、銅色〈あかゞねいろ〉の艶々と、然も痩せた片足を前はだけにぐいと折つて踵で臍を圧するばかり、斜に肩を落して、前のめり、坐睡すると見ゆるやう、左利の拇指と、人差を割つたのに、薄手の猪口を挟んで、肘を鍵形〈なり〉にしやツちこばらせ、貧乏揺ぎといふ、総身をゆすぶツては俯向いたまゝ、猪口を鼻の頭で押つけるやうにして酒を嗅いで居る親仁があつた。これを見て、目を返して、いま引返さうとする娘が、襟脚の雪のやうに鬢の浮いた、撫肩の、双子もしなよく、すらりとした後姿〈うしろつき〉を、

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