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 『外科室』 青空文庫

 室内のこの人々に瞻られ、室外のあのかたがたに憂慮《きづか》われて、塵をも数うべく、明るくして、しかもなんとなくすさまじく侵すべからざるごとき観あるところの外科室の中央に据えられたる、手術台なる伯爵夫人は、純潔なる白衣《びゃくえ》を絡《まと》いて、骸のごとく横たわれる、顔の色あくまで白く、鼻高く、頤《おとがい》細りて手足は綾羅《りょうら》にだも堪えざるべし。脣《くちびる》の色少しく褪せたるに、玉のごとき前歯かすかに見え、眼は固く閉ざしたるが、眉は思いなしか顰みて見られつ。わずかに束《つか》ねたる頭髪は、ふさふさと枕に乱れて、台の上にこぼれたり。

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