検索結果詳細


 『海神別荘』 華・成田屋

僧都  いや、荒海を切って影を顕すのは暴風雨(あらし)の折から。如法たいてい暗夜(やみ)じゃに因って、見えるのは墓の船に、骸の蠢く裸体(はだか)ばかり。色ある女性の衣などは睫毛にも掛りませぬ。さりとも小僧のみぎりはの、蒼い炎の息を吹いても、素奴(しゃつ)色の白いはないか、袖の紅いはないか、と胴の間、狭間、帆柱の根、錨綱の下までも、あなぐり探いたものなれども、孫子は措け、僧都においては、久しく心にも掛けませいで、一向に不案内じゃ。

 9/369 10/369 11/369


  [Index]