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 『日本橋』 青空文庫

「稲葉家様の縁起棚の壁でござりますの、縁側などに掛っていて拝見したことがござりますよ。はい。何でござりますか、それでは旦那様は、」
「うむ、内のもの同然だ。」と頤を撫でる。
 界隈では、且つ知って且つ疑う。土地に七不思議が有ればそれはその第一に数えて可い。一石橋の河太郎、露地の駒下駄、お竹蔵などとともに、この熊の皮がそれである。湿深そうな膏ぎったちょんぼり目を膃肭臍、毛並の色で赤熊とも人呼んで、いわゆるお孝の兄さんである。……本名|五十嵐伝吾、北海道産物商会主とある名札を持つから、成程膃肭臍も売るのであろうが、他に何を商って、どこに住むか、目下の処いまだ定かならずである。

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