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 『国貞えがく』 青空文庫

 その茶の室《ま》の長火鉢を挟んで、差むかいに年寄りが二人いた。ああ、まだ達者だと見える。火鉢の向うに踞《つくば》って、その法然天窓《ほうねんあたま》が、火の気の少い灰の上に冷たそうで、鉄瓶より低い処にしなびたのは、もう七十の上になろう。この女房の親《おふくろ》で、年紀《とし》の相違が五十の上、余り間があり過ぎるようだけれども、これは女房が大勢の娘の中に一番末子《すえっこ》である所為で、それ、黒のけんちゅうの羽織を着て、小さな髷に鼈甲の耳こじりをちょこんと極めて、手首に輪数珠を掛けた五十格好の婆が背後向《うしろむき》に坐ったのが、その総領の娘である。

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