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 『木の子説法』 青空文庫

 幼い時聞いて、前後《あとさき》うろ覚えですが、私の故郷の昔話に、(椿《つばき》ばけ――ばたり。)農家のひとり子で、生れて口をきくと、(椿ばけ――ばたり。)と唖《おし》の一声ではないけれども、いくら叱っても治らない。弓が上手で、のちにお城に、もののけがあって、国の守《かみ》が可恐《おそろし》い変化《へんげ》に悩まされた時、自から進んで出て、奥庭の大椿に向っていきなり矢を番《つが》えた。(椿ばけ――ばたり。)と切って放すと、枝も葉も萎々《なえなえ》となって、ばたり。で、国のやみが明《あかる》くなった――そんな意味だったと思います。言葉は気をつけなければ不可《いけ》ませんね。
 食不足で、ひくひく煩っていた男の児《こ》が七転八倒します。私は方々の医師《いしゃ》へ駆附けた。が、一人も来ません。お雪さんが、抱いたり、擦《さす》ったり、半狂乱でいる処へ、右の、ばらりざんと敗北した落武者が這込《はいこ》んで来た始末で……その悲惨さといったらありません

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