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『半島一奇抄』
青空文庫
喚《わめ》くと同時に、辰さんは、制動機を掛けた。が、ぱらぱらと落ちかかる巌膚《いわはだ》の清水より、私たちは冷汗になった。乗違えた自動車は、さながら、蔽《おお》いかかったように見えて、隧道《トンネル》の中へ真暗《まっくら》に消えたのである。
主人が妙に、寂しく笑って、
「何だか、口の尖《とん》がった、色の黒い奴が乗っていたようですぜ。」
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