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 『日本橋』 青空文庫

 苦とも言わせず、踏のめす気か足を挙げた熊は、四辺に人は、邪魔は、と見る目に、御堂の灯に送らるるように、参詣を済まして出た……清葉が、朧の町に、明いばかりの立姿。……それと見て、つかつかと、小刻みながら影が映す、衣の色香を一目見ると、じたじたとなって胴震いに立窘むや否や、狼狽加減もよっぽどな、一度駆出したのを、面喰って逆戻りで、寄って来る清葉の前を、真角に切って飛んで遁げた、熊の周章てた形は、見る見る日本橋の袂へ小さくなって、夜中に走る鼬に似ていた。

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