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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

百合 水の源《もと》はこの山奥に、夜叉ヶ池と申します。凄《すご》い大池がございます。その水底《みなそこ》には竜が棲《す》む、そこへ通うと云いまして――毒があると可恐《こわ》がります。――もう薄暗くて見えますまいけれども、その貴客《あなた》、流《ながれ》の石には、水がかかって、紫だの、緑だの、口紅ほどな小粒も交《まじ》って、それは綺麗でございますのを、お池の主の眷属《けんぞく》の鱗《うろこ》がこぼれたなんのッて、気味が悪いと申すんでございますから。……
学円 綺麗な石が毒の鱗? や、がぶがぶと、豪《えら》いことを遣《や》ってしもうた。(と扇子をもって胸を打つ。)
百合 まあ、(と微笑《ほほえ》み)私どもがこの年まで朝夕飲んで何ともない、それをあの、人は疑うのでございます。

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