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 『婦系図』 青空文庫

 河野から酒井へ申込んだ、その縁談の事の為ではないが、同じこの十二日の夜、道学者坂田礼之進は、渠が、主なる発企者で且つ幹事である処の、男女交際会――またの名、家族懇話会――委《くわ》しく註するまでもない、その向の夫婦が幾組か、一処に相会して、飲んだり、食ったり、饒舌《しゃべ》ったり……と云うと尾籠《びろう》になる。紳士貴婦人が互に相親睦《あいしんぼく》する集会で、談政治に渉《わた》ることは少ないが、宗教、文学、術、演劇、音楽の品定めがそこで成立つ。現代における思潮の淵源、天堂と食堂を兼備えて、薔薇《しょうび》薫じ星の輝く的の会合、とあって、おしめと襷《たすき》を念頭に置かない催しであるから、留守では、芋が焦げて、小児《こども》が泣く。町内迷惑な……その、男女交際会の軍用金。諸処から取集めた百有余円を、馴染《なじみ》の会席へ支払いの用があって、夜、モオニングを着て、さて電燈の明《あかる》い電車に乗った。

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