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 『人魚の祠』 青空文庫

 今考へると、それが矢張り、あの先刻《さつき》の樹だつたかも知れません。同じ薫《かをり》が風のやうに吹乱れた花の中へ、雪の姿が素直《まつすぐ》に立つた。が、滑《なめら》かな胸の衝《つ》と張る乳の下に、星の血なるが如き一雫の鮮紅《からくれなゐ》。糸を乱して、卯の花が真赤に散る、と其の淡紅《うすべに》の波の中へ、白く真倒《まつさかさま》に成つて沼に沈んだ。汀を広くするらしい寂《しづ》かな水の輪が浮いて、血汐の綿がすら/\と碧を曳いて漾《たゞよ》ひ流れる……
(あれを見い、の形が字ぢやらうが、何と読むかい。)
 ――私が息を切つて、頭《かぶり》を掉《ふ》ると、

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