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 『五大力』 従吾所好

「俺に別嬪の惚れる処を、後学のために見て置け。」と言ふ、三年ぶりの大音である。 小弥太は、お縫と桟敷に並んだ。
 時に、葛桶にすらりと掛けた。揃つて、屹と霞を見る、気組は然れど、俤は、気高く〓〈らふ〉闌けたものであつた。
 ト命ぜられたる如く、しだらくに坐つた霞が、はらりと立つた。が、彼を見、此を見、行き戻り、繞〈めぐ〉り、廻り、起つ居つ、悩み、乱れ、惑ひ、迷ひ、〓〓〈さまよ〉ひ、松を叩き、柱を探り、〓〈どう〉と倒るるとすれば、はツと起きる。……ト恰も抜持ち膝に当てた、舞扇の畳んだ色が、晃々として絶壁紺青の怪しき巌に仙境の月幽に映して、裂目の草を射る中から、五個の顔が差覗く。……霞は、あはれ、貴〈あで〉に艶なる数の魔に弄ばるゝ趣見えて、あせり狂ふ身は袖二ツ、襲ねて幾つ、振明、八口、ずた/\に裂けなむとす。

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