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 『五大力』 従吾所好

 ト命ぜられたる如く、しだらくに坐つた霞が、はらりと立つた。が、彼を見、此を見、行き戻り、繞〈めぐ〉り、廻り、起つ居つ、悩み、乱れ、惑ひ、迷ひ、〓〓〈さまよ〉ひ、松を叩き、柱を探り、〓〈どう〉と倒るるとすれば、はツと起きる。……ト恰も抜持ち膝に当てた、舞扇の畳んだ色が、晃々として絶壁紺青の怪しき巌に仙境の月幽に映して、裂目の草を射る中から、五個の顔が差覗く。……霞は、あはれ、貴〈あで〉に艶なる数の魔に弄ばるゝ趣見えて、あせり狂ふ身は袖二ツ、襲ねて幾つ、振明、八口、ずた/\に裂けなむとす。
「冬木の弁天様を念じて上げませうよ、お可哀相に。」と俯向いて、お縫が袖を合はせた時よ。
 楽屋を抜けた一廻り、揚幕から立直つて、鷺がト舷へ留つた体に、上下着けた釣船矢右衛門。偉大なる白き胡蘆〈ふくべ〉を、横ざまに着けたる体に、いざうれ、あり合はせた造り船を、袴腰に挟〈さしはさ〉んで、する/\刻足に衝と舞台へ出ると、ハタと据ゑて、えい、と乗り、座を構へ、

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