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 『日本橋』 青空文庫

 葛木はしかし考えさせられた様子が見えて、
「成程、思ったって饒舌ったって、違いは無いか。いや、そうまでは、なかなか悟れない。……と云うのはやはり色気なんです。……極りは悪いがね。
 そのサの字なんだ。切符の表に、有るべき理由の無い一字が、もし有ったら、いつも控え控え断念めて引退る、その心がきっと届くぞ!……想が叶う。打明けて言えば清葉が言う事を肯いてくれる。思切って打着かろう。サの字が無ければ、今夜も優柔しく、と言えば体裁が可い、指を銜えて引込もうと、屹と思って熟と視ると、波打つ胸の切符に寄せる、夕日に赤い渚を切って、千鳥が飛ぶように、サの字が見えた。」

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