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 『日本橋』 青空文庫

 そのサの字なんだ。切符の表に、有るべき理由の無い一字が、もし有ったら、いつも控え控え断念めて引退る、その心がきっと届くぞ!……想が叶う。打明けて言えば清葉が言う事を肯いてくれる。思切って打着かろう。サの字が無ければ、今夜も優柔しく、と言えば体裁が可い、指を銜えて引込もうと、屹と思って熟と視ると、波打つ胸の切符に寄せる、夕日に赤い渚を切って、千鳥が飛ぶように、サの字が見えた。」
「ああ。」とその千鳥を見るように、引入れられて、屏風はずれに前髪を上げた、瞼の色。お孝の瞳は恍惚と、湯気の朧にしい。
 葛木も連れられて、夢を見るように面を合せて、

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