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 『星あかり』 泉鏡花を読む

 門を出ると、右左、二畝ばかり慰みに植ゑた青田があつて、向う正面の畦中に、琴弾松といふのがある。一昨日の晩、宵の口に、其の松のうらおもてに、ちら/\と灯が見えたのを、浜の別荘で花火を焚くのだといひ、否、狐火だともいつた。其の時は濡れたやうな真黒な暗夜だつたから、其の灯で松の葉もすら/\と透通るやうに青く見えたが、今は、恰も曇つた一面の銀泥に描いた墨絵のやうだと、熟と見ながら、敷石を踏んだが、カラリ/\と日和下駄の音の冴えるのが耳に入つて、フと立留つた。

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