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 『雛がたり』 青空文庫

 北の国の三月は、まだ雪が消えないから、節句は四月にしたらしい。冬籠《ふゆごもり》の窓が開いて、軒、廂《ひさし》の雪がこいが除《と》れると、北風に轟々《ごうごう》と鳴通《なりとお》した荒海の浪の響《ひびき》も、春風の音にかわって、梅、桜、椿、山吹、桃も李《すもも》も一斉《いちどき》に開いて、女たちの眉、唇、裾八口《すそやつくち》の色も皆花のように、はらりと咲く。羽子《はご》も手鞠もこの頃から。で、追羽子《おいはご》の音、手鞠の音、唄の声々《こえごえ》。
……ついて落《おと》いて、裁形《たちかた》、袖形《そでかた》、御手《おんて》に、蝶や……花。……
 かかる折から、柳、桜、緋桃の小路を、麗かな日に徐《そっ》と通る、と霞を彩る日光《ひざし》の裡に、何処ともなく雛の影、人形の影が〓〓《さまよ》う、……

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