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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 城家にては泰助が、日蔽《ひおほひ》に隠れし処へ、人形室の戸を開きて、得三、高田、老婆お録、三人の者入来りぬ、程好き処に座を占めて、お録は携へ来りたる酒と肴を置排《おきなら》べ、大洋燈《おほランプ》に取替へたれば、室内照りて真昼の如し。得三其時膝押向け、「高田様、ぢあ、お約束通り証文をまいて下さい。高田は懐中より証書を出《いだ》して、金一千円也と、書きたる処を見せびらかし、「いかにも承知は致したが、未だ不可ません。なにして了つたら、綺麗薩張とお返し申さうまづそれまでは、と又懐へ納め、頤を撫でて居る。「お録、それ/\。と得三が促し立つれば、老婆は心得、莞爾《にこ》やかに高田に向ひて、「お芽出度存じます。唯今花嫁御を。……と立上り、件の人形の被《かづき》を掲げて潜り入りしが、「じたばたせずにお来《い》でなさい、といふ声しつ。今しがた見えずなりたる、美人の小腕《こがひな》を邪慳に掴みて、身を脱《のが》れむと悶えあせるを容赦なく引出しぬ。美人は両手に顔を押へて身を縮《すく》まして戦き居たり。

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