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『婦系図』 青空文庫
カラアの純白《まっしろ》な、髪をきちんと分けた紳士が、職人体の半纏着を引捉《ひっとら》えて、出せ、出せ、と喚《わめ》いているからには、その間の消息一目して瞭然《りょうぜん》たりで、車掌もちっとも猶予《ためら》わず、むずと曲者の肩を握《とりしば》った。
「降りろ――さあ、」
と一ツしゃくり附けると、革を離して、蹌踉《よろよろ》と凭《もた》れかかる。半纏着にまた凭れ懸かるようになって、三人揉重《もみかさ》なって、車掌台へ圧されて出ると、先《せん》から、がらりと扉を開けて、把手《ハンドル》に手を置きながら、中を覗込《のぞきこ》んでいた運転手が、チリン無しにちょうどそこの停留所に車を留めた。
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