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 『日本橋』 青空文庫

 何ですよ、奥庭に有った手水鉢を見ましたがね、青銅のこんな形、とお鹿の女房は仕方をして、そして竜の口を捻ると、ザアです。焼けてもびくともなさらない。すっかり青苔を帯びた所が好いなんのッて、私に話した。
 惚れた芸者の工面の可いのは、客たるもの、無心を言われるよりなお怯む、……ここでまた怯まされた。
 清葉の手水鉢、でいささか酔覚の気味。二階は梅ヶ枝の手水鉢。いや、楠の正成だ。……大将も惜い事に、懐中都合は悪かったね。

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