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 『婦系図』 青空文庫

 駄目でさ、だってお前さん、いきなり引摺り下ろしてしまったんだから、それ、ばらばら一緒に大勢が飛出しましたね、よしんばですね、同類が居た処で、疾《とっく》の前《さき》、どこかへ、すっ飛んでいるんですから手係りはありやしません。そうでなくって、一人も乗客《のりて》が散らずに居りゃ、私達《わっしだち》だって関合《かかりあ》いは抜けませんや。巡査《おまわり》が来て、一応検《しら》べるなんぞッて事になりかねません。ええ、後はどうなるッて、お前さん、掏摸は現行犯ですからね、証拠が無くって、知らないと云や、それまででさ。またほんとうに掏られたんだか何だか知れたもんじゃありません、どうせ間抜けた奴なんでさあね、と折革鞄《おりかばん》を抱え込んだ、どこかの中小僧らしいのが、隣合った田舎の親仁に、尻上りに弁じたのである。

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